梶浦敏範【公式】ブログ

デジタル社会の健全な発展を目指す研究者です。AI、DX、データ活用、セキュリティなどの国際事情、今後の見通しや懸念をお伝えします。あくまで個人の見解であり、所属する団体等の意見ではないことをお断りしておきます。

遠隔爆破による対個人テロ

 誰がやったのかについては、まだ分かっていない。しかしなぜ、ははっきりしている。レバノン拠点の武装勢力ヒズボラの勢力を削ごうとする、対個人テロである。大規模な暗殺行為と言ってもいい。

 

レバノン連日の爆発、20人死亡 「日本製の無線機」、450人超負傷―対ヒズボラでイスラエル関与か:時事ドットコム (jiji.com)

 

 まず17日、この数ヵ月間にヒズボラのメンバーに配布されたポケベルのような機器が、遠隔操作で爆破され12名の死者、2,800名以上の負傷者が出た。続いて18日、今度はやはり最近導入された無線機が爆発、20名の死者と450名以上の負傷者を出した。

 

 ポケベルは、スマホ等が傍受されているのではとの意識で、メンバー間の連絡を保つために導入したものという。当初台湾製と報じられ、私はリチウム電池を暴走させるマルウェアが仕込まれたのかと思った。

 

イスラエルから死海越しにヨルダンを見る

 しかし、台湾企業は「ブランド名を貸しただけ」で、製造販売はハンガリー企業、機器には爆発物が仕込まれていたと分かった(*1)。ブランド貸しというのもひどい話だが、製造中か製造後にか、爆弾を入れ込んだというのはもっとひどい。

 

 無線機はポケベルより大型だったろうから、より多くの爆薬を仕掛けられたはず。爆発した数は少なくても、より多くの死者を出した理由は、そのあたりにあるはずだ。

 

 起爆は通信によって起こされたはずで、爆薬に点火するハードウェア(電線程度でもいい)とそこに信号を流すソフトウェア(マルウェア)が必要だ。それらが配備された時にはすでに入っていて、今というタイミングでテロが実行された。

 

 少なくとも通信機能は必要なのだが、この手口はポケベルや無線機だけでなく、あらゆるもの(カメラ・クルマ・バイク・電動スクーター・テレビ・エアコン・洗濯機・冷蔵庫など)に仕掛けられる。これらは、IoT技術により通信(*2)能力を持ち始めていることでもある。この種のリスク、どのように防げばいいのだろうか?

 

*1:ヒズボラの爆発ポケベルは「ハンガリー製」 台湾企業声明 写真8枚 国際ニュース:AFPBB News

*2:スマート家電が乗っ取られた? - 梶浦敏範【公式】ブログ (hatenablog.jp)

TOP Secret が漏れていたかも

 安全保障上の機密を民間人まで含めて護るための「セキュリティ・クリアランス制度」が日本でも導入される。先の通常国会で成立した関連法案の担当大臣は、今自民党総裁選を戦っているお二人(小林鷹之高市早苗)である。

 

 この制度はどんなものか、3年ほど前に米国事情を調べたこと(*1)がある。誰がどんな情報にアクセスできるかを定めていて、資格審査も大規模(資格者約400万人)に行われている。例えば、

 

・情報の規定、漏れたことで致命的なダメージを受けるのがTOP Secret

・人の規定、TOP Secret にアクセスできるのは約225万人

 

 となっていることが分かった。情報の内容としては8区分が示されていて、その最初のものが「米軍の計画、兵器システム、軍事行動」だった。

 

沖縄の Camp Kinser

 今回、そのTOP Secret を含む機密情報が、民間企業によって中露に漏洩したとして制裁金が課せられるという事件があった。

 

「え、機密情報持ったま海外出張!?」多数の軍用機の技術が中露へ流出か? 米政府 自国企業に巨額の罰金を科す! | 乗りものニュース (trafficnews.jp)

 

 耳慣れない企業名<RTXコーポレーション>は、2023年に現在の企業名になる前は<レイセオン・テクノロジーズ>だった。世界一のミサイルメーカーであり巨大(*2)な軍需産業である。間違いなくTOP Secret を持っていたはずで、

 

・無許可の防衛品輸出

・機密指定された防衛品の不正輸出

・禁止地域への防衛品の持ち込み

 

 が問われている。最後のものは、中国等に機密情報が入ったPCを持って入国し、現地で情報を抜き取られたかもしれないこと。日本企業でも(首記制度導入前でも)、中国出張時は専用のスマホタブレットに切り替え、必要最小限の情報しかもっていかないようにしている幹部もいる。それなのに、米国を代表する企業がこれでは・・・。

 

 米国の同制度は、400万人も対象者がいて「機密を護れるはずがない」という人もいる。本件も参考にして、実効ある(民間企業を責め立てるだけではない)機密情報管理の在り方を、日本政府は熟慮して欲しい。

 

*1:米国のクリアランス制度(2) - Cyber NINJA、只今参上 (hatenablog.com)

*2:2020年実績で、売り上げ約100Bドル、従業員約20万人

2つの資本主義、日本はどこへ?

 米国大統領選挙の記事が少なくなるほど、自民党総裁選・立憲民主党代表選の話題がメディアを席巻している。各候補者から、外交・安保、社会福祉天皇家原子力・環境、税負担などの政策が語られている。党内でも相互に批判していることもあり、活発な政策論議に見えなくもない。しかしベテランジャーナリストに聞くと「しょせん、選挙中のリップサービス」という冷めた返事が返ってきた。市民の政策課題への関心が高まるから、議論そのものはいいことだが期待してはいけないようだ。

 

 一般市民からは「経済政策が一番重要」との意見が聞かれる。具体的には、

 

・生活弱者への助成

・地域や個人の格差是正

・産業振興による雇用拡大、処遇改善

 

 というものだ。そういえば、今月で終焉を迎える岸田内閣の看板は「新しい資本主義」だった。結局それは何だったのか、分からないまま総理の座を譲ったことになる。

 

沖縄北谷のAmerican Depotにて

 ルクセンブルグ所得研究センターで社会の不平等を研究しているブランコ・ミラノビッチ教授によれば、資本主義には2種類ある(*1)。

 

・リベラル能力資本主義

 米国に代表される、広範な自由が認められた「Winner Takes All」型経済。高名な投資家や巨大ITのCEOなどが、ほとんどの富を独占するが、全体としての経済は大きくなる。

 

・政治的資本主義

 中国に代表される、政府統制の範囲内での自由があり国家資本が主導する経済。政府や大衆の意図に反して大きくなれば、スポイルされる。ある程度のところまでの成長は期待できる。

 

 いずれも政治とカネの問題を抱えることになるのだが、意味は異なる。前者は、カネが政治を買う。大統領選で多額の献金をした人物が、要職を得るようなことだ。後者は政治力がカネを集める。例えば許認可権限への賄賂で、清朝では国家予算の10倍もの不正蓄財をした宦官がいたという。習政権が「腐敗の撲滅」を掲げている理由がよくわかる。

 

 ミラノビッチ教授は「日本には両方の資本主義がある」と言っている。結局政治のやるべきことは、両者の比率をどの辺にもっていくか決め、そのための具体策を練ることになろう。新しい総理&内閣には、その意識や目標を最初に示してほしい。

 

*1:資本主義も限界、どうすべきか? - 新城彰の本棚 (hateblo.jp)

ファクトチェックのコスト負担

 米国大統領選挙で最大のイベントだった、ハリス対トランプのTV討論会が終わった。総じてメディアの評価は「ハリス副大統領の判定勝ち」だが、実況中のXアカウントではトランプ擁護派の意見が多かったという。例によってトランプ前大統領は嘘を重ね、司会に「それは事実ではありません」と否定されても、さらに嘘をつき続けた。その数17種類、ハリス副大統領の嘘は2種だったという。

 

 誤解しての嘘拡散、つい出てしまった嘘、意図的な嘘、陰謀の一部としてのミスディレクション等々、編集される機会の少ないネット上には事実と異なる情報が溢れている。それを上記の司会者のように「嘘だ」と否定し、聴衆に誤ったバイアスを与えないようにすることは重要だ。ネット上でその任務を担っているのが、ファクトチェック機関である。

 

    

 

 2000年ごろから各国に生れた機関だが、より社会的な重要性が増す一方、このところ資金難で閉鎖される機関(*1)が出て、数が減っている。その活動費は寄付などで賄われるのが普通だが、例えば日本ではその認知度が低い(*2)。経営は苦しいと思われる。すでに社会インフラといってもいいファクトチェック機関の費用(*3)は、誰が負担すべきか?

 

 政府の信頼度が高いのであれば、税金で賄うのがいいだろう。「コンテンツ・モデレーション」の一環で、プラットフォーマーの負担とするなら、プラットフォーマーの影響をどう考えるかがカギになる。真に中立・独立を保つためには、社会全体から薄く広く資金を提供してもらうのが望ましい。個人の寄付が理想だが、それでは十分ではないとすると、やはり一般企業の浄財を集めるのがよいのではと考える。

 

 ネット社会で恩恵を受けている企業や業界団体には、是非ファクトチェック機関への寄付(人材提供も含めて)をご検討いただきたい。

 

*1:韓国最大のファクトチェック・サイトが閉鎖 | InFact / インファクト

*2:米大統領選で注目の「ファクトチェック」、日本での認知度低く | 毎日新聞 (mainichi.jp)

*3:日本ファクトチェックセンター(JFC)は、設立資金をGoogle、Yahoo、Metaらから出してもらい、運営費用は寄付に依っている

選択的夫婦別姓議論の背景

 自民党総裁候補、小泉進次郎氏のキャッチフレーズは「決着」なのだそうだ。その中でも、

 

・1年以内に法案を出す

・ただし党議拘束はかけない

 

 とかなり具体的な提案をした政策が、選択的夫婦別姓問題。その推進を求める経団連に、推進して決着させると約束したと思われる。所詮「選択」なのに、30年もなぜ決着しなかったのかというと、自民党の中に一部強硬な反対派がいたから。ただ本当に一部かというと、疑問もある。個人的には賛成なのだが、それでは選挙の時の支援が得られないと「消極的反対」のスタンスだった自民党議員が多いという。支援って誰のというと、まずは<日本会議>。

 

憲法改正のポイント - 新城彰の本棚 (hateblo.jp)

 

 にあるように、現行憲法が個人に寄りすぎていると批判し、改正案に「13条個人としての尊重、24条個人の尊厳を削除し、家族保護をいれよう」と主張している。

 

京都御所にて

 続いて<日本会議>と関係が深いとされる<神道政治連盟>。これまで多くの国政選挙で、多くの候補者を応援してきた。応援するにあたっての条件(*1)に、皇統を尊重・改憲論議推進・教育改革推進などとならび「夫婦別姓男女共同参画社会に反対」がある。

 

 政治評論家は「神道政治連盟に、それほどの集票力はない」と言っていたが、3つ目が加わるとそうとも言えないのではないか。

 

ついに牙を剥いた「総裁」 - Cyber NINJA、只今参上 (hatenablog.com)

 

 とどめは<旧統一教会>。今の名称が<世界平和統一家庭連合>で、家庭が入っていることが怪しい。先に述べた「自民党の中の一部強硬な反対派」は旧安部派だと、ある総裁候補者が漏らしたと伝えられる。水面下に潜ってはいるが、選挙区当たり5万票あるともいうこの団体の影響力。それがないと当選が危うい議員は、旧安部派を中心に多くいて、自説を曲げても「選択的夫婦別姓」に賛成するわけにはいかなかったのだろう。

 

 自身は当選に心配のない小泉議員も、そこを慮って党議拘束を外すと言ったのではないか。図らずも大問題に浮上した選択的夫婦別姓の決着、総裁選・総選挙の争点になったようだ。

 

*1:神道政治連盟 - Wikipedia

意外にあっさり「改善に努める」と・・・

 先月、フランスの空港でSNS<テレグラム>創業者パヴェル・ドゥロフが逮捕された。日本ではあまり馴染みのないSNSだが、1対1の秘話(*1)ができたり一定期間でメッセージが消えるなど、犯罪にはもってこいの仕様。ディープフェイクポルノ、児童ポルノ、麻薬取引、マネーロンダリング等に「活用」されている。多くのSNSが「コンテンツモデレーション」を進める中、イーロン・マスクの<X>とこの<テレグラム>は、規制に後ろ向きだった(*2)。

 

 しかし、今週保釈された彼は「犯罪者が悪用しやすくなる状況に陥った」と認め「大幅な改善を確実に実現」すると述べた(*3)。ロシア人だがウクライナ人の母親を持ち、ロシア当局から目を付けられていたから、相当の猛者だと思っていたのに意外とあっさり宗旨替えをしてくれたようだ。

 

    

 

 このSNSはロシアの反政府活動家故ナワリヌイ氏も使っていたが、メドヴェージェフ前大統領らも使っていると伝えられる。ロシア中枢部の情報もやり取りされていたかもしれない。SNS上のデータを監視することは、彼らにも困った事態かもしれない。ただマクロン大統領は、今回の逮捕とその後の取り調べに「政治的な意図はない」と言っている。

 

 とりあえず、上記の犯罪行為のプラットフォームになっている事態の改善はいいことだ。例えば、ディープフェイクで女性の被害が増え続けている韓国では、ユン大統領が「撲滅」を指示している。<テレグラム>の改善は、その助けになることは間違いはない。しかし、また新しい問題SNSも出てくるだろうから、いたちごっこではある。それに<テレグラム>を越える大物<X>も残っていることだし・・・。

 

*1:暗号化されているので運営側も内容を知りえないのが建前で、本当に覗いていないか、消さずに保存していないかについては不明

*2:政治とSNS、過去・現在・未来 - 梶浦敏範【公式】ブログ (hatenablog.jp)

*3:テレグラムCEOが保釈後初のコメント、「悪用防止策」を導入 | Forbes JAPAN 公式サイト(フォーブス ジャパン)

堺屋思想の原点に立ち返って!

 せっかく自民党が失点を重ね、立憲民主党も党内がゴタついているのに、野党第二党日本維新の会が冴えない。この人だけが悪いわけではないが、馬場代表体制になってからダッチロール気味だ。

 

・不祥事を起こす国会議員や地方首長

・第二自民党でいいとの発言

・「身を切る改革」の主張が見えなくなった

 

 結党以来、種々の経緯はあった(*1)ものの「小さな政府」を目指す基本方針は変わらなかった。しかし党勢拡大を目的に地方組織、下部組織の充実を図ったことが裏目に出ているような気がする。かつての代表橋下徹氏に、「飲み食い政治の成れの果て」と非難されている(*2)のも理解できる。政府のカネにたかる利権団体に支えられた利権政治打破をしていたはずなのに、新しい利権団体を作ってしまったのではないか?

 

経産省の受付前にあるミャクミャク人形

 その典型例が、大阪万博だ。メタンガスが噴き出す埋立地を整備し、万博終了後IR施設を展開しようとしていて、これには多くの利権団体が絡んでくる。馬場代表や吉村知事に申し上げたいのは、堺屋思想(小さな政府、利権政治打破)に立ち返ってほしいということ。「Tax EaterからTax Payerへ」主権を取り戻してほしいのだ。「Tax Eater」は個人から組織まで、実に多様だ。

 

生活保護の不正受給者

・働かない公務員

・ロビーイングで我田引水を図る企業

補助金が当たり前と思っている業界

 

 これらを除去すると共に、業界を縛っているあらゆる規制を見直し、シンプルにすること。これを主張できるのは、今の日本政界には日本維新の会しかいないと思っている。

 

 このままだと「堺屋思想は大阪万博に始まり、二度目の大阪万博で終焉した」ことになってしまう。原点に立ち返っての再起を期待したい。

 

*1:地域の改革政党から中央へ - 新城彰の本棚 (hateblo.jp)

*2:橋下徹氏 維新の〝経験不足〟コキ下ろす「飲み食い政治のなれの果て」 | 東スポWEB (tokyo-sports.co.jp)