梶浦敏範【公式】ブログ

デジタル社会の健全な発展を目指す研究者です。AI、DX、データ活用、セキュリティなどの国際事情、今後の見通しや懸念をお伝えします。あくまで個人の見解であり、所属する団体等の意見ではないことをお断りしておきます。

デジタル産業

半導体産業囲い込みの動きか?

先月、半導体ファウンダリ大手のTSMC熊本工場が稼働し始めた。まだ震災から復興途上である熊本県にとっては、地場産業の拡大に向けた朗報である。さらに、第二工場の建設も決まっているという。熊本TSMCだけでなく、このところ関連事業所の新増設が相次いで…

スタートアップ優遇にならず(後編)

「デジタル庁」発足から3年ほどになるが、彼らの努力は買うとしても、前編で述べたようなリテラシーを中央官庁が得るには、10年ほどの時間がかかると思う。さらに、行政機関特有の問題点もある。 民間・民間の取引では、資本主義の原則に従って商談を進める…

スタートアップ優遇にならず(前編)

中央省庁のシステム開発・運用は、かつては<国策SIer>に任せるのが普通だった。それは洋の東西を問わず、英国でもその傾向はあって、国策企業ICLに英国政府システムは多くの発注が流れた。ICLが経営不振に陥った後は、同じIBM互換機メーカーだった富士通が…

デジタル貿易自由化への逆風

私のデジタル技術者としての会社人生、後半は「Global & Digital」を推進する政策活動が中心となった。国ごとに違う規則と、国境が存在しないサイバー空間の矛盾を、少しでも緩和できるよう、各国政府に働きかけたものだ。TPPの電子商取引章に、 ・国境を渡…

NVIDIA・・・やはり製造業ではない

先週、日経平均株価が34年ぶりの高値を付けた。世界経済が好調とはいえず、種々の懸念の中でインフレは収まらない。いやな雰囲気なのに、株式市場は(米国含めて)好調だ。そのけん引役と言われるのがデジタル産業、特に今回は半導体産業のNVIDIAの好決算が…

半導体関連企業は守らないの?

「もしトラ」の続報である。先週米国事情に詳しい有識者から種々教えてもらい「予測不能なトランプ政権への対処法を考えなくては」という気になった。とにかく自国産業を守り、雇用を守るスタンスだから、今月紹介した日本製鉄のUSスチール買収など論外(*1…

巨大ITの決算、株価&AI

先週、巨大ITと称せられる5社の2023年10~12月期の決算発表(*1)があった。各社増収、増益で、日経紙は「巨大IT再点火」と見出しを付けていた。改めて、アマゾンの売上高約1,700億ドル(前年同期比14%増)というのはとんでもない値だと思う。年間に直せば…

たかがゲーム、されどゲーム

昨年末、中国の習政権がオンラインゲーム規制案を公表するや、テンセントなど関連企業の株価が急落した。約11兆円の時価総額(*1)が吹き飛んだとする報道もあった。たかがゲームなのだが、スマートフォンとインターネットが当たり前の中国では、非常に重要…

ITベンダーの責務(後編)

IBMがコンピュータの代名詞だった頃に出来た<IBM互換機市場>、それは決して長くは続かなかった。Appleが登場し、IBMがルーツとはいえPCがポピュラーになり、クライアントサーバーシステムがメインフレームを駆逐していった。今は多くのコンピュータ資源が…

ITベンダーの責務(前編)

英国国有企業ポストオフィスが、民間郵便局長700人以上に横領の罪などを着せたとされる、英国史上最大の冤罪事件の全貌が日本にも伝わってきた。原因は勘定系システム<ホライゾン>のバグで、金銭収支が合わなくなったことを局長・局員の不正だとしたことに…

半歩前進?中途半端?

一時期、少しは期待していた「ライドシェア解禁」、結局は中途半端な結果に終わりそうだ。今年久しぶりに海外出張に行き、オーストラリアで何度も「Uber」を利用した。非常に便利な交通手段であることは、いまさら繰り返す必要もあるまい。しかるに日本では…

クラウド事業マイナス成長・・・の意味

デジタル産業は飛躍的な技術発展によって、急激な成長を続けている。もちろん競争は激しくその時々でHOTな分野は異なるが、産業全体としてはずっと右肩上がりである。今HOTな分野といえば「AI事業」だが、現時点ではまだ投資の方が圧倒的に大きく、将来期待…

APEC会合に合わせた外交交渉

先週、米国東海岸カリフォルニア州は大忙しだった。APECの首脳会合が開かれたが、それに合わせた日程で、多くの外交交渉が持たれたからだ。世界が最も注目したのは、1年ぶりの米中首脳会談。東欧や中東で紛争が激化していて、南シナ海や台湾海峡の緊張も高…

FortinetとALAXALA

ある会合で、Fortinet-JapanとALAXALAネットワークスの幹部とお会いした。Fortinetは、世界最大手の統合脅威管理(UTM)の製造販売メーカである。激化するサイバー攻撃の大半はネットワーク経由だから、ネットワークセキュリティの最大手ということで、サイ…

メタ・プラットフォームズ、2つの試練

巨大IT企業の代表格は、俗に「GAFAM」と呼ばれている。私も彼らとは種々の交流をしてきて、今でもお世話になることが多い。ただこの中で全く付き合いのないのが、旧フェイスブック、現メタ・プラットフォームズである。理由は私のビジネス経験がBtoB型に限ら…

問題はどの市場に活かすか(後編)

だから私のビジネス人生の大半は、IT市場拡大に費やされた。具体的には、 ・市場を知るためお客様の状況を学ぶ ・市場にアクセスするため、パートナー企業(例:商社)を捜す ・デジタルが使えない規制の緩和に向け、業界団体・政界・官界と接触 ・サイバー…

問題はどの市場に活かすか(前編)

先週「AIモデルのCM」が登場したことを紹介したが、IT業界にいる者にとっては、生成AIのプログラミング能力の方が気になる。生成AIが(使い方によっては)高度なプログラムを、非常に短い時間で書き上げることができるからだ。日本のIT産業、特にSIerと呼ば…

IT産業人自らの変革

各国の成長率が鈍化している中、「失われた30年」だった日本経済に成長の兆しが見えてきた。4~6月期のGDP成長率が年率換算6%を越えていることがその証だし、これからへの期待も、 ・大企業中心に大幅ベースアップ ・初任給1,000万円以上の待遇も ・公務…

全世界売上げの〇%の罰金

先週、英国でネット上の有害情報を規制する法律(*1)が成立した。きっかけはネット上の自傷行為を助長する情報を得て、14歳の少女が自殺した事件。SNSや関連サイトにはこの種の情報が一杯あって、野放し状態になっていることも事実である。この法律は情報を…

未だにライドシェア導入是非の議論

個人が所有している自動車を使って、移動手段を提供するサービス「ライドシェア」。私たちが訪れる国では、ごく普通のものになっている。5月のオーストラリア出張では、ずいぶんお世話になった。特にブリズベン空港からゴールドコーストのホテルまで50分ほ…

NVIDIAの業績好調に想う

先週、証券会社の人と話をしていて「NVIDIA株まだ上がりますよ」と言われた。その時点で1株500ドルほどだったのだが、750ドルまでは行くという。この数ヵ月で株価は上昇し続けていたが、売上高・営業利益が急増、自社株買いも増えて絶好調である。 日経平均…

FTCカーン氏の巨大IT叩き(後編)

FTCはマイクロソフトのアクティビジョン・ブリザード買収(*1)阻止に向けた審判手続きを停止したので、両社は8月末に予定していた買収期限を3ヵ月伸ばしはしたものの、買収完了に向けて前進できたことになる。 ただバイデン政権は、今回の件はさておき、…

FTCカーン氏の巨大IT叩き(前編)

バイデン政権が誕生した時、人事として一番驚かされたのは、FTC(*1)のトップに当時32歳と若いリナ・カーン氏が就任したことだった。パキスタン人の両親からロンドンで産まれたコロンビア・ロー・スクールの准教授。専門は反トラスト法である。以前から巨大…

2025年に「デジタル課税」発効?

欧州各国が「デジタル課税」の導入をもくろんでいることを聞いたのは、おそらく5年ほど前。その後、欧州委員会・G7・OECD・G20などの場で議論されていることは知っていて、最近では、 デジタル課税の遅れはいいとして - Cyber NINJA、只今参上 (hatenablog.…

情報工学と文学

私が工学部の情報工学科に入学したのは、1974年のこと。クラスは44名が在籍していて、あれから50年にもなろうというのに何人かで集まることができるのは望外である。何人かは鬼籍に入ったが、比較的早い時期に2/3ほどのメンバーのメルアドが共有できていたの…

IT産業人の生存率

マイナンバーに代表されるシステムトラブルも目立ち、このところ苦戦が続く大手SIerの富士通(株)。その動向について、先週2つの記事が目に留まった。 〈みずほ〉と富士通、システム開発・保守に生成AIを活用する共同実証実験を開始 : 富士通 (fujitsu.com…

利用技術/産業こそが重要

生成AIのブームにあたり、各国の開発競争も激しくなっている。G7広島サミットではAIを巡るルール作りをすることを定めた「広島AIプロセス」が公表されている。AIの健全な発展に向けて、悪用を防止しながら技術開発/利用をすすめようということだ。一部の識…

アルメニア・アゼルバイジャンの和平

ロシア・ウクライナ紛争の和平に関して、いろいろな国が提案をしているが、現状では和平交渉が始まる気配はない。提案している各国も「言いましたよ」程度の提案だとする有識者の意見もあった。 一方長年紛争が続いていた、アルメニアとアゼルバイジャンの紛…

鉄道輸出、デジタル屋からみた「コア」

日本の鉄道技術は世界一・・・いや少なくとも世界有数である。「弾丸列車」の異名をとった東海道新幹線の開業は、1964年。それ以降日本各地に延伸していきながら、飛び込み自殺などの例を除いて死亡事故はほとんどない。かの東日本大震災でも、脱線しただけでク…

ASEANのデータ流通拠点

先週日経紙が、日経フォーラム第28回「アジアの未来」の模様を伝えた。晩さん会での岸田総理のスピーチには、 ・G7広島サミットの歴史的意義 ・自由で開かれたインド太平洋(FOIP) ・ASEAN地域での連携強化 が含まれていた。特に最後の点については具体的に…