東京圏での新規データセンター(DC)建設が目白押しだという。従来アジア圏で一番多く設置されているのが北京地区だが、これを猛追して逆転も視野に入ってきているらしい。
データセンター、東京圏で急増 中国回避で「特需」 - 日本経済新聞 (nikkei.com)
純粋にDCの需要が増しているからだけではなく、米中対立を受けて中国国内のDCを使うことを回避する向きが多いからと、この記事は言う。日本の国力例えば"Economic Statecraft"の観点では、アジア最大のDC集積地が国内にあることは望ましいことだ。
しかし私としては、中国回避の特需とするこの記事には、やや複雑な気持ちである。というのは、サイバー空間に本来国境はなく、技術的にはどこにDCがあっても利用者側が意識することは無いはずだから。10余年前、TPPについての議論の中で日米の産業界は、
1)ビジネスのための国境を越えるデータの移動は、これを認める
2)製品やサービスの提供にあたり、ソースコードを開示することは強制されない
3)サービス提供にあたり、サーバー(含DC)を自国内に置くことは強制されない
の3点を盛り込もうとした。結果は、TPP第14章(電子商取引)にこれらが入って発効している。世界には強権的な政府を持つ国家も少なくなく、それらも含めた世界市場で同等のサービスを目指していた産業界としては、これらの条件がビジネス上必要だった。国境を越えるデータは世界基準のサービスには欠かせないし、技術の基幹であるソースコードは守られなくてはならない。
加えて、国内へのサーバー設置義務(Server Localization)は、経済合理性(*1)の理由だけでなく、強権国家に突然サーバを差し押さえられた場合にも、個人情報や企業秘密などを守る目的で許してはいけないことだった。
中国をはじめとするいくつかの国は、この3条件を満たしてくれなかった。その結果、紹介した記事にあるような回避が起きているわけだ。私は世界で一つのサイバー空間を理想としていたから、中国などがその輪に入ってくれなかったことを残念に思っている。
*1:立地や物流・空調含む電力・運営のマンパワーなどの総コストが安いところを選定