梶浦敏範【公式】ブログ

デジタル社会の健全な発展を目指す研究者です。AI、DX、データ活用、セキュリティなどの国際事情、今後の見通しや懸念をお伝えします。あくまで個人の見解であり、所属する団体等の意見ではないことをお断りしておきます。

産業界の期待に一番近い国

 高崎市で開催されていた、G7のデジタル相会合が終了した。7年前の会合は高松市で行われ、私自身も民間会合(B7)のお手伝いをした。その時は国境を越えるデータの重要性と、サイバーセキュリティをテーマに議論したのだが、今年はAIに注目が集まっている。閣僚宣言には、

 

・AI評価の国際標準づくり

・AI規制の調整

・国境を越えるデータの信頼

・暗号化したままのデータ処理技術促進

・海底ケーブルなどインフラの強化

・生成AIなど新技術のための5原則

 

 が盛り込まれた。5原則とは、法の支配・適正な手続き・イノベーションの機会活用・民主主義・人権尊重で、まずは反対する人(&国)が少ない総論が並んでいる。では具体的にどうするのか?日経紙が面白い分析をしてくれていて、

 

        

 

A:新規ルールをつくるか、従来ルール応用か

B:ハードローか、ソフトローか

 

 の2軸で各国のスタンスを記述している。欧州各国はAI向けに新規ルールを作り、ハードローで規制するとのスタンス。米国は(州によって違うこともあり)、中間の位置づけ。日本はソフトローで従来ルール応用だったのが、やや新規ルール容認に動いているとある。

 

 産業界の期待は、従来ルール応用・ソフトローと、欧州とは正反対のところにある。そのスタンスに一番近いのは、日本ということになる。ルールが多ければ多いほど、ハードローで縛られれば縛られるほど、ビジネスはやりにくい。特に昨今の新技術のように急激に変化するものを扱う場合、分からないなりに政府よりも産業界の方がそのリスクについても詳しい。時間のかかるハードロー制定では間に合わないし、産業界の規範を信じてソフトローで縛っておいた方が、結果としては社会のためになる。もちろん産業界も、その規範を社内外に徹底する責務は負う。

 

 このところOpenAIのCEOが岸田官邸を訪問し、続けてMicrosoftGoogleAWSの幹部もやってきた。おそらく上記の点を強調しに来たのだろう。一部報道では「日本がAI・データ規制が緩い国、そこに巨大ITが目を付けた」とあるが、それはうがった見方と思われる。日本政府には、基本をソフトローとしながら、産業界との対話を進めて各国協調をはかる努力をお願いしたい。