梶浦敏範【公式】ブログ

デジタル社会の健全な発展を目指す研究者です。AI、DX、データ活用、セキュリティなどの国際事情、今後の見通しや懸念をお伝えします。あくまで個人の見解であり、所属する団体等の意見ではないことをお断りしておきます。

そのDRAMは何に使われるのか?

 G7広島サミットの関連でだろう、米国マイクロンテクノロジーの広島新工場に日本政府から2,000億円が支援されることになった。米国のエマニュエル大使は、

 

「中国の威圧に対抗する先例となる」

 

 と賛辞を送っている。そこで何が製造されるかというと、DRAMである。かつて日本が半導体王国だったころの主力製品は、高品質のDRAMだった。しかしその「栄華」は長く続かない。

 

 半導体技術者でジャーナリストである湯之上隆氏は、昨年衆議院の「科学技術・イノベーション推進特別委員会」で、以下のような意見陳述をしている。

 

①日本のDRAM産業は、安く大量生産する韓国の破壊的技術に駆逐された
②日本半導体産業の政策については、経済産業省産業革新機構日本政策投資銀行が出てきた時点でアウトとなった
③日本は、競争力の高い製造装置や材料を、より強くする政策を掲げるべきである

 

    

 

 ②については違和感があるが、他の2点は正しい。特に問題にすべきは①で、なぜ日本の産業界が「安いDRAM」を作れなかったかにある。湯之上氏は、

 

メインフレームに使う、長寿命(25年)製品で世界を席巻し、

・PC等で使う、5年もてばいい製品は(心理的に)作れなかった

 

 と指摘する。確かに日本の電機産業は伝統的に「品質信仰」を持っていて、過剰品質に陥りやすい体質がある。しかしPC用にメインフレームとは別に開発し、工程管理まで見直すことは出来たはずだ。例えば、IBMAppleなどが台頭したころ、

 

「ガレージメーカーに対応するには、自社もガレージメーカーになる」

 

 として、Entry Systems Div.を立ち上げて、IBM-PCを作った。

 

 要するに日本のDRAM産業は、製品が何に使われるかのマーケティングに失敗したのである。今回のマイクロン社の新工場はもちろん歓迎だが、期待はそこで何が作られるのか、何に使うDRAMがロールアウトされるかにかかっている。

 

 「家電~大型コンピュータ~PC~スマホ」と半導体利用の主役はうつろってきた。自動車産業も大ユーザである。今後はロボットなどに市場が広がるだろう。何に使われる半導体か、これを追求するのこそビジネスの真髄である。