梶浦敏範【公式】ブログ

デジタル社会の健全な発展を目指す研究者です。AI、DX、データ活用、セキュリティなどの国際事情、今後の見通しや懸念をお伝えします。あくまで個人の見解であり、所属する団体等の意見ではないことをお断りしておきます。

「広島ビジョン」の評価

 例えば東西冷戦のピークだったキューバ危機(1962年)以降、久しぶりに世界は核戦争の脅威に向き合っている。戦略核兵器1,500発以上を保有する大国ロシアが、核の使用をちらつかせているからだ。緊張が高まることによって、偶発的な事故や誤認が核戦争に発展してしまうリスクも高くなる。

 

 そんな中広島G7サミットが終了し、被爆地広島から「広島ビジョン」が発信されている。

 

広島ビジョンとは 核抑止・核軍縮の両立探る - 日本経済新聞 (nikkei.com)

 

 大きな方向性として、核なき世界を目指しながら核戦力の削減には務める。もちろん各国への(先制)不使用は求めるのだが、反撃能力としての核兵器保有は禁じず、その抑止力は認めるという内容になっている。

 

    

 

 これに対し、被爆者・ICAN日本共産党・中国政府・ロシア外務省からは反発の表明があった。中露は別として、他の団体や個人からは「せっかく被爆地からの発信なのに、核廃絶への姿勢や進展が見られない」というのが主な理由。

 

 しかし現下の国際情勢を考えると、G7各国の合意出来る範囲内でぎりぎりの踏み込んだ内容になっていると、私は考える。確かに核兵器は「絶対悪」かもしれないが、コストパフォーマンスの良い兵器としての地位も揺るがない。核兵器と同等の破壊力を通常兵器で揃えるとしたら、その軍事費は膨大なものになるだろう。

 

 あくまで理論上のことだが、核兵器廃絶は可能だ。核兵器以上の(効率的な)兵器を、開発し普及させればよい。あるいは核兵器保有そのものがリスクになるような、技術開発(*1)をしてもいい。人命を犠牲にしても野望を遂げたいと思う個人や集団、国家が無くならない限り、国際紛争は続く。手段としての核兵器を廃絶しても、それに代わる何かが出てくるだけだ。

 

 そこで次善の策として、G7各国・インド・ウクライナ等の元首が核兵器の悲惨さを実感してもらえたのち、上記のビジョンを発信できたことは有意義だったと考える。

 

 

*1:サイロ内で核ミサイルが自爆するよう遠隔操作できるサイバー攻撃手法等