梶浦敏範【公式】ブログ

デジタル社会の健全な発展を目指す研究者です。AI、DX、データ活用、セキュリティなどの国際事情、今後の見通しや懸念をお伝えします。あくまで個人の見解であり、所属する団体等の意見ではないことをお断りしておきます。

少しずつデカップリングが進む?

 尖閣諸島をめぐるリアルな衝突だけでなく、サイバー空間を使った諜報活動や妨害工作、技術窃取などの疑いがあり、中国とは距離を取るべきだとの意見が日本産業界には根強い。数年前に亡くなったJR東海の葛西会長は、決して新幹線の中国輸出を認めなかった。「技術を盗られるだけ」というのが口癖だったという。

 

 ただ中国市場や中国における合弁会社の業績などは、多くの日本企業にとって簡単には捨てられない規模である。デカップリングなど不可能だと、産業界の重鎮は私に語った。急激な振れ方を危惧して、私の所属するシンクタンクでは、中国もサイバー攻撃の被害者であるとの主張を国内にも紹介した(*1)。

 

 しかしこのところの中国での動きは、少しずつではあるが日本企業が中国から距離を置き始めるのではと思わせることが少なくない。これまでにも紹介した習政権の情報管理に関する規定は、日本企業に危惧を与えた。

 

        


 そして「改正反スパイ法」が施行されて1年、旅行者も含めてスマホやPCの検査を強化する措置が採られるようになったとの報道(*2)があった。以前から産業界の要人はスマホやPCをハッキングされる可能性を考えていて、中国出張の時だけは専用の機器を持っていく人もいた。今月からは、ハッキングなどしなくても「所持品検査です」と言えば情報窃取が可能になる。出張する要人のランクも下がるだろうし、頻度も減るのが普通だ。

 

 加えて、蘇州の日本人学校のバス襲撃事件もあった。大使館は在留邦人に注意喚起をしたのだが、警戒のために種々のコストを払うのなら、折を見て引き揚げようという家族も少なくなかろう。習政権は「故意に日本人を狙ったものではない」というが、根底には「反日教育」をしてきたことがある(*3)はずだ。

 

 「完全なデカップリングなど不可能」と、私は今でも思っているが、少しだけ距離を置くことから、それが始まるのではなかろうか?

 

*1:中国もサプライチェーンリスクを意識 - 梶浦敏範【公式】ブログ (hatenablog.jp)

*2:中国、「国家安全」へ監視徹底 入国時スマホ検査に懸念―改正反スパイ法施行1年:時事ドットコム (jiji.com)

*3:蘇州日本人学校バス襲撃事件の背景に、中国でまかり通る「日本蔑視策」(現代ビジネス) - Yahoo!ニュース