梶浦敏範【公式】ブログ

デジタル社会の健全な発展を目指す研究者です。AI、DX、データ活用、セキュリティなどの国際事情、今後の見通しや懸念をお伝えします。あくまで個人の見解であり、所属する団体等の意見ではないことをお断りしておきます。

イノベーションは市場から起きる

 時代は「DATA Driven Economy」である。その象徴ともいえるのが、大量にデータを使って成長してゆくAIアプリケーションだ。もちろんどんな技術にも光と影はあって、AI活用によって、

 

・定型、準定型業務について、抜群の効率化

 未熟練労働者の底上げ、コーディング・デバッグ等に有用

・社会に新しいムーブメントを起こす

 クリエーター能力向上、高齢者/障がい者の社会参画促進

 

 のような「光」がある反面、

 

・利益が一部に集中した新しい階層

 脚本家/俳優のストライキ、AIを使える使えないでの格差

・AIを悪用する動きも顕著

 本物そっくりの映像/音声での詐欺、AIに偏ったデータを与える妨害

 

 のような「影」も覗える。いずれにしても、AIがどれだけのデータにアクセスできるかは、その成長に大きく影響する。欧米では(人権としての)著作権などへの意識が高く、AIに与えるデータに強い規制をかける動きがある。

 

    

 

 しかし、日本ではそこまで強いデータ利用規制は(現時点では)考えられていない(*1)。そこで、AI開発を行う各社がこぞって日本にやってきて、データセンター等を設置するように見える。これを、

 

日本はもはや「イノベーションの国」ではなく、AIの「巨大市場」なのだろうか | クーリエ・ジャポン (courrier.jp)

 

 と評した記事が掲載された。日本のエンジニア等は米中に比べれば優秀ではなくイノベーションを起こせないが、ニーズは多いので市場として魅力的だというのが趣旨。エンジニアの質はともかく「イノベーションの国ではない」には、ちょっと異論がある。

 

 それは、この記者の「優れた技術⇒イノベーション」という思い込みだ。確かにAI等基礎技術は外来かもしれない。しかし日本のデータを使って、日本によいアプリケーションが生れるなら、これは立派なイノベーション。そういう意味で、日本が「データ利用&イノベーション立国」を目指しているなら、これは歓迎すべきことだ。

 

 古来イノベーションを起こすのは、技術ではなくニーズなのだということを、もう一度申し上げておきたい。

 

*1:産業界の期待に一番近い国 - 梶浦敏範【公式】ブログ (hatenablog.jp)