梶浦敏範【公式】ブログ

デジタル社会の健全な発展を目指す研究者です。AI、DX、データ活用、セキュリティなどの国際事情、今後の見通しや懸念をお伝えします。あくまで個人の見解であり、所属する団体等の意見ではないことをお断りしておきます。

「中国製造2025」の目標はロボット

 一昨年「Chat-GPT」の登場に始まるAIブームは、応用分野の開拓と同時に規制論も巻き起こした。キリスト教文化の影響か、欧米各国では「AIが人間を超える:シンギュラリティ」への危機感が日本より大きく、より強い規制を求める声が強い。そこで先週紹介したように、規制が緩いとされる日本にAI関連企業が集まってきている(*1)。

 

 では中国はどうか?欧州などで強く求められる、個人データの利用規制はほぼない。AIが職を奪うとする労働者のストライキも、たぶんない。AI用の先端半導体が入手しづらいという問題はあるかもしれないが、技術も利用拡大条件も整っているとみるべきだ。ではどの分野に中国のAI利用は進むのか?

 

    

 

上海の「世界AI大会」で見えた、人型ロボにかける中国の期待 | Forbes JAPAN 公式サイト(フォーブス ジャパン)

 

 によれば、その有力候補は「人型ロボット」だという。AI活用は、サービス産業で大きな成果上げると見られている。まずはITサービス分野で、さらに金融サービス分野で、合理化と高付加価値化をもたらす。しかし中国はロボット製造を含む製造業に目を向けた。

 

 おそらくは「中国製造2025」の一環として、製造業のハイテク化を進める有力な手段としてAIを考えているのだろう。それを推し進めているのは、新チャイナセブンのひとりで、習近平の後継候補にも挙げられる丁薛祥(*2)。

 

 中国は今「中所得国の罠」に嵌っている。安い労働力と技術導入で中所得国にまではなったが、次のブレイクスルー(高付加価値のサービス産業主体)ができていない。しかし米国を第三次産業で追い抜くのは、難しいうえに合理的でもない。ブレイクスルーすれば米国のように極端な格差社会となり、14億人の国が統治できなくなる。だからITサービス産業や教育産業を叩き、製造業回帰を図っているのだ。

 

 それも従来の低賃金製造業ではなく、ハイテク(高付加価値)製造業でなくてはならない。その一番見込みある出口が、ロボット製造&運用なのだと思う。最近、中国の大学卒業生がブルーカラーに就業する例が多いという。これは職がないので・・・ではなく、ブルーカラーがインテリジェントな職場になっているのではないか。それなら「中国製造2025」は着実に進み始めていると言えるだろう。

 

*1:イノベーションは市場から起きる - 梶浦敏範【公式】ブログ (hatenablog.jp)

*2:ハイテク国家戦略の要、丁薛祥 - 新城彰の本棚 (hateblo.jp)