かつて、IBM社のことを「いつまでもBusiness Machine」と揶揄した日本の業界人がいた。コンピュータの未来が(PCなどの登場によって)大きな広がりを見せているのに、営業戦略としてビジネス機器を得ることに軸足を置いているとの意味だ。もちろん今のIBM社は、幅広い業容を持ちAI分野や量子コンピュータ分野での開拓意欲もあるので、このような批判はあたらない。
なぜこの言葉を思い出したかというと「いつまでもManufacturing Factory(IMF)」だよねと思う製造業界のことを聞いたから。製造業もただ製品を売るだけではなく、その製品の稼働状況をデータとして収集し、
・製品の品質向上
・顧客の利用パターンの把握
・運用アドバイスなどのサービス付加価値提供
・顧客ビジネスの重要パートナーに
業容転換するのが当然の時代になっているからだ。
ところがコインランドリー機器を製造販売している業界では、機器にIoT能力がありながらそのデータを活用していないと聞いた。あるベンチャー企業の社長との会話で知ったことなのだが、その企業は、
・コニランドリー機がどのくらい稼働するか
・曜日、時間帯、天候、場所等によってどう変わるか
・洗濯終了後の洗濯物滞留時間(*1)はどのくらいか
などのデータを集積・分析することで、ランドリー経営のアドバイスをし、従来やりたくても難しかったダイナミックプライシングを可能とした。このビジネスは「DATA Driven Economy」の典型例で、納得がいくものだ。ただ私は「機器メーカーがなぜその企業にデータを使わせたのか?」を疑問に思い聞いてみた。すると、この種のメーカーは数社しかなく、どこも出し惜しみせず使わせてくれたとのこと。正直びっくりした。
上記のように、製造業が「タダのモノづくり」から脱却するには、作っている機器のデータが命綱。数社しかないならデータを業界で共有する交渉をし、ともにデータ活用することも難しくなかったはず。それを第三者に許してしまったなど、経営者として怠慢であり失格である。結果として社会全体で有効活用し始めているのでいいのだが、プロセスにおいては疑問の残る話題だった。
*1:洗濯が済んでいるのにとりに来てくれない時間、ランドリー経営者にとっては短いほど嬉しい