慶應義塾大学には「慶應サイバー文明研究センターCCRC」という文理融合研究機構がある(*1)。今回この機構主催の「医療と健康のDXセミナー~AI前提の健康・医療」というセミナーの開催案内があり、参加することにした。

寒波が来るとの予報があるが、すでに三田キャンパスは桜も咲いて春の雰囲気。ゆっくり坂を上って、会場の北館ホールに行った。リアル参加者は多くない。40~50名ほどだが、オンライン参加者は100名を大きく超えると聞いた。このセミナーは4回目、これまでも医療のDXを支えるための、ロボティクス、データ活用、ビジネスモデルなどについて議論を重ねてきたという。今回はAI時代を前面に出して、各分野の識者が集う会議にしたいと案内状にあった。
最初の講演者は、結核予防会尾身茂理事長。そう日経紙「私の履歴書」3月分を執筆した<日本政府コロナの顔>である。尾身氏はすでに2009年新型インフルエンザ流行時に政府の対策委員長をしていて、その時の経験から「医療データのデジタル化と流通、蓄積スキームが必要」と政府に伝えたとのこと。しかし10年を経て「COVID-19」の対策に従事することになって、それらが全くできていないことを知った。

専門家会議の副座長として、困ったことが2点。一つは厚労省の精力が<ダイアモンド・プリンセス号>に割かれていて、国内対策に不足だったこと。もう一つはデータが不足していたことである。専門家会議は感染症学者主体だから、どうしても「どうやって感染拡大を防ぐか」に傾く。本来経済活動とのバランスを取りたいのだが、それを判断するデータもない。データがなければ「経済活動をどこまで制限すべきか」のシミュレーションもできない。
結局「医療崩壊を起こさない」ことを唯一の目標にして、規制を緩めたり厳しくしたりを繰り返すしかなかった。データ収集で壁になったことの一つが「個人情報保護」だったという。この後のセッションで憲法学者の山本教授が登壇し「公的目的のための個人情報収集・活用の在り方」を論じたが、専門家会議ではそのような議論もできなかったと思われる。
次のパンデミック(だけではなく自然災害などもあるが)に備えて、個人情報墨守でなく公的目的のための利用拡大や、データ整備を進めるべきだと、私も思う。