梶浦敏範【公式】ブログ

デジタル社会の健全な発展を目指す研究者です。AI、DX、データ活用、セキュリティなどの国際事情、今後の見通しや懸念をお伝えします。あくまで個人の見解であり、所属する団体等の意見ではないことをお断りしておきます。

労働党政権、20年ぶりの再挑戦

 ポピュリズム政党<リフォームUK>が台頭するなど混迷を深めている英国政局だが、気になるニュースが一つ入ってきた。

 

イギリス、デジタルIDの義務化を計画 スターマー首相が発表へ - BBCニュース

 

 要するに日本でいう、マイナンバー&マイナンバーカードを導入するという政策案である。あの英国が、そんなもの導入していなかったのかと驚く人もいたかもしれない。記事では2000年代に、今のスターマー政権と同じ労働党のブレア政権で提案したものの実現できず、再挑戦だという。

 

 ちょうどブレア政権のころ、私はデジタル政策を推進する業界団体の立場で、欧州各国のマイナンバー(という名前ではなかったが)の普及施策を調査していた。電子政府先進国エストニアや北欧諸国では、デジタルIDは普通に受け入れられていて、逆にこれなくしては市民生活ができないほどだった(*1)。

 

    

 

 調査団は各国政府事情を、南下しながら聞き取っていった。ベルギーまではデジタルIDに肯定的な国だったが、フランスで様相は一変する。財務省の人が出てきて納税管理のためのデジタルIDシステム構想を述べたが、実績はゼロ。

 

 北欧諸国などは個々人の年収まで公開されるのだが、フランス人はそんなことを検討すれば「プライバシーの侵害!」と騒ぎ出すからだ。隣接する国で、ベルギーとフランスの違いは何か?ベルギーはナポレオン時代にフランスの衛星国で、納税・徴兵のためにナポレオンが<個人番号>を導入していた。本国では(フランス革命の流れで市民の意識が高く)そのような管理の必要性がなかったから導入されなかった。

 

 事情は、ナポレオンの上陸を阻止した英国でも同じ。電子政府を推進しようとした労働党ブレア政権は、保守党・自由民主党に阻止された。では20年後の再挑戦はどうなるのか?ポイントは「不法移民と不法就労防止」という目的設定を、市民がどう考えるかだろう。日本でもよろめきながら進んでいるデジタルID普及、ユーラシア大陸の反対側の国の事情も注視してゆきたい。

 

*1:だからエストニア電子政府は、2007年にロシアからと思われるサイバー攻撃にさらされた