梶浦敏範【公式】ブログ

デジタル社会の健全な発展を目指す研究者です。AI、DX、データ活用、セキュリティなどの国際事情、今後の見通しや懸念をお伝えします。あくまで個人の見解であり、所属する団体等の意見ではないことをお断りしておきます。

空中基地局、期待とちょっとの不安

 家庭のWiFiには2つの周波数帯、2.4GHzと5GHzがある。前者は速度が遅く、干渉を受けやすい代わりにドアや薄い壁をすり抜ける(回折する)ことができる。後者は速度が速く干渉も受けにくいが、遮蔽物に弱い。私はルータが見えるところにデスクトップPCなどを置き、5GHzでつなぐ。スマホなどモバイル機器は2.4GHz接続にしている。

 

 周波数が上がれば、電波は光に近くなって直進性が増す。家庭用に限らず、例えば基地局も、眺めのいいところに置くほうが効率的だ。しかしあまりに高いアンテナを立てれば航空機の邪魔にもなるし、第一費用がかさむ。また<スターリンク>のように衛星通信では、これもコストが大変だ。そこで空中基地局というアイデアが出てきた。

 

    

 

 災害時にヘリに基地局を積んで行方不明者とコンタクトしようとしたり、ドローンに積んで代用基地局にすることは行われていた。商用を目指す実験を数年前にソフトバンクがしたこともある。今回NTTドコモらの発表では、

 

・UAVに基地局を積み、20km以上上空の成層圏に飛ばす

太陽電池を電源に、数ヵ月の滞空が可能

 

 として、実用化に近づいた(*1)という。地上の我々から視認はできないが、地下以外のどこからでも直線的に電波のやりとりができる。緊急の増設やカバーエリアの拡大も、技術的には難しくない。ある意味、理想の基地局といえよう。

 

 ただ成層圏に滞空していて、安全が保てるかは別の話だ。ウクライナ紛争以降、バルト海などで海底ケーブルが損傷する事態が起きているが、破壊工作(もしくは傍受しようとして傷つけた)の可能性がある。

 

 空中にある基地局が排除されたり、乗っ取られたりするリスクを考えないといけないのが、悩ましいところだ。そこまで含めてのコスト対効果の算定を、事業者にはお願いしたい。

 

*1:エアバス子会社、NTTドコモらと提携 無人機で「空飛ぶ通信基地」実用化へ - TRAICY(トライシー)