梶浦敏範【公式】ブログ

デジタル社会の健全な発展を目指す研究者です。AI、DX、データ活用、セキュリティなどの国際事情、今後の見通しや懸念をお伝えします。あくまで個人の見解であり、所属する団体等の意見ではないことをお断りしておきます。

サイバー攻撃も戦争犯罪に

 このところ、国際刑事裁判所ICC)関連の記事が多い。ICCは、戦争犯罪、人道に対する罪、ジェノサイドの3つを取り締まる国際機関。それだけ国際情勢が緊迫化している証拠だが、

 

プーチン大統領に、戦争犯罪容疑での逮捕状

 → ロシアが反発し裁判官を脅迫

イスラエル高官やハマス指導者にも、逮捕状請求

 → 米国が反発し、ICC自身に制裁も

 

 とICCの活動が波紋を広げている。ただ、米国もロシアも中国も加盟していないし、執行は加盟国の治安機関に委ねられるので、戦争犯罪者として逮捕状が出ても実害はそれほどでもない。

 

 この3つの犯罪行為は、リアル空間でのことだと思っていたら、サイバー攻撃戦争犯罪の疑いがあるとの記事が出た。

 

ICC、ウクライナへのサイバー攻撃を戦争犯罪の疑いで捜査=関係筋 | ロイター (reuters.com)

 

琵琶湖疎水の取水口

 捜査しているのは、ウクライナの重要インフラへのロシアからの攻撃。電力・水道・通信や各種サービスを非機能化することは戦争犯罪の疑いがあるという。市民の生命に直結するような脅威だからだろう。同じサイバー攻撃でも、フィッシング詐欺とは重みが違うのだ。その中間あたりにあるのが、病院などを狙うランサムウェア。政治目的ではなく金銭狙いだが、人命に関わることもある。

 

 ロシアのサイバー攻撃は、2007年にエストニア電子政府を狙ったものに始まり、紛争のたびに行われてきた。クリミア併合以後、弱い電力インフラをもつウクライナには再三の攻撃を加えている。2022年2月の侵攻にあたっても、政府システムや電力インフラへの攻撃があった。米国企業などの協力で、これを予期していたウクライナ側は被害を最小限に抑えている。

 

 ロシアに限らず、サイバー攻撃を「低強度紛争」の手段として使う国は少なくない。例えばイランとイスラエルは、水道システムへの攻撃をやりあって(*1)いる。実際に手を汚してジェノサイドなどしなくても、戦争犯罪に問われる。そんな時代になったのである。

 

*1:イスラエル対イラン、サイバー空間の暗闘 - 梶浦敏範【公式】ブログ (hatenablog.jp)