梶浦敏範【公式】ブログ

デジタル社会の健全な発展を目指す研究者です。AI、DX、データ活用、セキュリティなどの国際事情、今後の見通しや懸念をお伝えします。あくまで個人の見解であり、所属する団体等の意見ではないことをお断りしておきます。

もう一度日本維新の会に期待する

 かつて佐藤栄作首相は、退任会見の折に新聞等のメディアへの不満をぶちまけ「お前らは出ていけ、私は直接市民を話をしたい」とTVカメラに向かって語り始めたという。もし佐藤首相の時代にSNSがあれば、首相はTVも(旧)メディアの一つと考えて「出ていけ」といったかもしれない。

 

 SNS時代の高市首相は、X投稿が多い。8月は60件以上、いずれも相当な長文だという。政府見解では、例え首相の直接発信であってもこれらは行政文書ではなく、政府に保存義務はない。ある意味「言いっぱなし」である。私としては、かような一方通行ではなく国会での記録にも残る公式論戦を望むのだが・・・。

 

旧古河庭園のバラ園

 やはり市民の関心事は、飲食品の消費減税にあるから、それを含めた物価対策に関する投稿も多い。ただ問題は財源である(*1)。現時点では消費減税に関する財源(平たく言えばどこを削るか)が示されておらず、年末の来年度予算編成で詳細を明示するのは仕方ないとして、今「これを削ります」と言ってもらえないのは不安が大きい(*2)。

 

 そんな中、日本維新の会が租税特別措置の見直しを求める要求を、各省庁に行ったとの記事があった。

 

租税特別措置の効果再点検を 維新、各省庁に要求へ:時事ドットコム

 

 年初に120項目を見直すと「日本版DOGE」が大ナタを振るうはずだったのに、7月の時点では削減できそうなのは1件だけ。事実上のゼロ回答だった。官僚機構では「一度作った租特や補助金をなくすのは難しい*3」からである。

 

 だからこそ、ここは政治家の出番。そうはいっても自民党では無理だから、与党である維新の会に(最後の)期待をかけたいと思う。副首都関連法より、私は議員定数削減を頑張ってほしかったし、租特のゼロベースでの全面見直しをやれるとしたら維新の会しかないだろう。メディアを十分に活用したOpenな議論と、今回ばかりは健闘ではだめで結果を期待する。

 

*1:消費税減税・防衛費増額、財源探し10兆円規模 税収増頼みなら市場波及 - 日本経済新聞

*2:例えば経産省はクールジャパン機構は廃止するけれども、AI・半導体ブームにのって7.7兆円を要求するという

*3:減税なんて、とても無理だね - 梶浦敏範【公式】ブログ

やはり選挙介入はあったようだ

 今年サイバー攻撃で最も話題になったニチレイでは、業務が復旧し事業継続はなんとか果たせた状態にある。関係各位の尽力に感謝し、その経験を可能な限り公表していただけるようお願いしたい。ただ、同社でも新しい問題が起きている。

 

ニチレイ、ランサム被害で従業員情報漏えいか 問われる「復旧後」の対応:さらなる漏えいの恐れも - @IT

 

 ランサム攻撃なので、個人情報が漏れていた可能性は高い。身代金を得られなかっただろう犯罪集団が、個人情報含めて<闇Web>に上げてしまったのだろう。その後かの情報がどう悪用されるかについては、現時点ではなんとも言えない。そう、個人情報漏えい問題は「その後」が読めないのだ。

 

代々木の都心には珍しい踏切

 クレジットカードの不正アクセスや旅行サイトでのトラブルなどはありそうだが、大規模なものになると「選挙への介入」というリスクも考えなくてはいけない。先月トランプ大統領の「選挙は盗まれた」説の裏に、6月の韓国地方選挙への不正な介入があったのかもしれないと紹介した(*1)。

 

 なにしろ中国関連と思しき情報窃取者は、SKテレコムから2,500万人分、クーパンから3,300万人分も盗んでいる。それらを使って、選挙介入した可能性はあった。そして今回追加の情報が。

 

グーグルがユーチューブの韓国語政治チャンネル449件閉鎖…理由は「世論工作」-Chosun online 朝鮮日報

 

 盗んだ個人情報で有権者の地域別の類型化を行い、狙った集団に向けた何らかのデマゴーグを流す・・・その手段の一つとして<YouTube>が使われたと思われる。記事には、Googleは選挙前の5月だけで「特定の政治・社会的認識に影響を及ぼそうとする工作をしている」と判断した韓国語チャンネル367件を閉鎖したとある。多くは与党を批判するもので、その影響がどうだったかは不明だが、与党はおおむね勝利している。

 

韓国与党、統一地方選で大勝 重要なソウル市長選は敗北 | ロイター

 

 日本でも6月に、KDDIから1,200万件以上の漏えい事案があった。盗まれた情報のその後についても、私たちは気を付けておく必要がある。

 

*1:妄言に滲んだ米国のインテリジェンス - 梶浦敏範【公式】ブログ

「AI時代の新職種FDE」って何?

 最近この言葉をよく耳にする。FDE:Foward Developed Engineerである。識者によると定義は「顧客の業務現場に深く入り込み、AIを活用して課題整理から設計、実装、運用、継続改善まで一気通貫で担うエンジニア職種」なのだそうだ(*1)。

 

 AI活用をするという1点を除けば、これは私も加わったある大手SIer企業の25年ほど前の業務改革計画と合致する。グローバルな一流企業は、自社内にデジタル技術者を多く抱えていて「課題整理から設計、実装、運用、継続改善」を自ら行うことができる。ただし時間をカネで買う発想で、外部のベンダーにこのプロセスのいくつかを外注する。

 

 ところがそのような要員が不充分な多くのドメスティック企業では、「自分たちでできないから、外部に委ねる」ことが少なくない。これが日本の多くの企業で、真の意味のデジタル活用が立ち遅れた理由である。

 

名古屋、大須観音の本殿

 そこで「課題整理から設計、実装、運用、継続改善」のすり合わせが不充分なまま、時間に追われて開発が始まってしまい、

 

・頼んだ内容と違う

・今ならこんな変更もできるよね

・予算が削られたので値引いてくれないか

 

 などでトラブり「動かないコンピュータ特集」に乗っけられてしまうことになる。これを防ごうと、25年前の私たちの議論は、

 

・大手のお客様には常駐SEがいる

・彼らはお客様ほどに業務内容、課題、対応策を分かっている

・設計、実装、運用に関しては、人月商売では売上高が上がらない

・上流のSEにコンサル力を付けさせ、運用や継続改善をアウトソーシングで貰う

 

 ということ収斂した。その実践をいくつもの大手のお客様で実施し、それなりの成果は上がったと思っていた。

 

IT大手4社、脱・人月へFDE拡充に意欲 日立は26年度内に国内1000人 | 日経クロステック(xTECH)

 

 今回、このような記事を目にして、25年経っても十分に浸透していなかったなと反省する次第である。AI時代と言うのは枕詞に過ぎず、課題抽出等が比較的容易になっただけのことだ。後輩の皆さんには、日本のドメスティック企業のデジタル活用を、今度こそ広めてほしいと思う。

 

*1:AI時代の新職種「FDE」は日本で定着するか - ZDNET Japan

国土強靭化、自分事化への8月

 再び東京にも猛暑が襲ってきたこの日、また霞ヶ関三号館にやってきた。何度か紹介している国交省の「インフラマネジメント戦略小委員会*1」である。前回は私も(あまりの暑さに)オンライン参加にしてもらったのだが、この日も委員の1/3ほどしかリアル参加の人はいない。しかし会合を重ねているうちに親しくさせてもらい、会合の前から雑談風に頻発する災害の話が始まった。

 

・熊本地震について、耐震化、断水対策、避難所運営、熱中症など災害関連死防止

・千葉などの豪雨について、ハザードマップ、内水氾濫、水没車からの脱出

 

 など、このところ「国土強靭化」としてそれなりの予算を付けてきたのだが、その想定を越える事態が起きているという認識は、国交省さんも各委員も共有している。

 

洛中の北東の護り、吉田神社

 確かに自治体含め、予算も対応する職員も足りないが、災害対策を一歩でも二歩でも進めておかないと、いざというとき大変なことになる。キーワードは、サイバーセキュリティの業界でもよく使われる「自分事化」である。

 

・自治体の首長、職員などがこのような災害を自分事化することは、相応にでき始めた

・しかし議会や住民が自分事化してくれているかというと、十分ではない

 

 例えば、避難所としての体育館にエアコンは必要だ、段ボールベッドも避難時には役立つのだが、いずれも普段は遊休設備であり管理コストもかかる。その費用は納税者として納得できるのかどうか?<報道1930>に出演した元県知事は「固定資産税を増税してでも、これらの事項に予算をつける」ことを提案しておられた。

 

 それは納税者(後の避難者でもある)が、災害を自分事化して増税を受け入れるかどうかが論点となる。かつてはこんな首長もおられた。

 

「優しい社会」を目指した明石モデル - 新城彰の本棚

 

 明石市長を12年勤められた泉房穂氏は、福祉充実のため市営住宅を建設中止にし、下水道強化も絞って予算をねん出したとこの書に書いておられる。無論二者択一ではないが、下水道が崩落して使えなくなる可能性を自分事化した市民が多かったら、市長もこのような決断はできなかったのではないかと考える。

 

*1:立法事実は下水道だけではない - 梶浦敏範【公式】ブログ

人間がAIと競うためのヒント

 ゲームの世界でコンピュータ対人間は、コンピュータの性能向上が著しいので、比較的単純なゲームからコンピュータ無敵になってきた。チェッカー、チェス、将棋ときて、2016年に「アルファGO」の登場で、囲碁界でも人間はコンピュータ(AI)に勝てなくなった。

 

 先月別ブログで、日本囲碁界最強棋士のひとり一力遼氏の書(*1)を紹介し、AIが最善とした手でも後の構想が立てづらければ、次善でも以後の展開を進めやすい手を選ぶべきとの主張に納得した。AIは特に終盤では絶対に間違わないので、それを前提に候補手を挙げてくる。しかし人間は(相手も含めて)間違えるかもしれないので、優勢であればマギレが少ない手を選ぶべきだということだ。

 

富岡八幡宮の花手水

 その書にも紹介してあったように、今はAIに対して人間のTOP棋士でも2~3子(*2)置かないと勝負にならない。そんな勝負に、韓国のTOP棋士シン・ジンソ九段が挑戦している。3局で勝敗を争うものだが、シン九段は2局目でAI「カタゴ」を破った。

 

シン・ジンソ カタゴに黒4目半で初白星 - ChosunBiz

 

 AIは、人間が数百年積み上げてきた序盤に良く現れる「定石」を全て勉強している。またヨセと呼ばれる終盤は、1手が何目に相当するかは計算できるので、大きいところから打ってゆくことをAIが間違えるはずもない。従って、人間にとっての勝機は中盤にしかない。ここには決まった手順もなく、厳格な計算もできない茫漠とした感覚が勝敗を分ける。

 

 恐らくシン九段は、序盤で大型定石を打たず、中盤を混とんとさせてAIも分からない状況を深め、生じた差を終盤でも守り抜いたものと思われる。大型定石は決まりきった進行に多くの手数を費やすので、AIにとってマギレの余地が減ってしまうからだ。

 

 AIは人類の蓄積である「定石」を全て学んだ。であれば、人間もAIの挙動や特徴についてより多く学ばなければならない。そんなことを教えてくれた、いち早く「シンギュラリティ」を迎えた世界の事例だった。

 

*1:AI時代、囲碁界からのヒント - 新城彰の本棚

*2:置き石というハンデは、1子に付きおよそ20目と言われる

官民挙げての巨大投資・・・の結果は?

 AI企業の巨大なIPO、ビッグテックのベンチャー買収、AI・半導体需要の高まりと迷惑施設と化したデータセンターの乱立など、倫理も哲学もないカネが、特に米国市場で暴れまわっている。本来民間が主役で政府介入は最小限が望ましいのだが、今回のAI・半導体狂騒曲はむしろ政府が主体で動かしているような気がする。

 

 民間だけでは国際競争に勝てないとの理由で、日本政府も成長17分野を指定し、2040年度までに官民あわせて370兆円を投資するとブチ上げている。分野数も多いし、官民の分担比率も不明だし、10年以上にわたる話なのでこの多寡についてはコメントのしようもない。しかし米国政府は、今この瞬間にもAI・半導体に2兆ドルの投資をしている。その結果、米国政府の累積債務は40兆ドル(日本円で約6,300兆円)に達した。

 

    

 

 手元に米国の累積債務のグラフがある。1970年には0.4兆ドルだった債務が、1995年に初めて5兆ドルを越えた。それでも2001年までは小康状態だったが、ブッシュ減税(2001~2003年)で増え始める。2007~2009年のリーマンショックで10兆ドルを越え、オバマ時代はオバマケアなど社会福祉の充実で右肩上がりになる。

 

 2017年トランプ1.0政権での減税でついに20兆ドルを越え、以後はうなぎのぼりである。「COVID-19禍」もあって2023年に30兆ドルを越え、2025年のトランプ2.0政権の減税や2026年のイラン戦争もあって、遂に40兆ドルに達している。その中の2兆ドルは、はっきり今年のAI・半導体関連の政府先行投資である。

 

 株式市場は熱狂しているが、ふと気づくと負債40兆ドル。「これってどう返済するんだっけ?」と多くの人が知ってしまった。具体的には、米国債の長期金利の上昇である。そこでベッセント財務長官は、日本との協調介入で円買いをしたり、米国国債を一部買い戻す奇策に出た。日本や円安で苦しんで助けてくれ(トランプ大統領の言)と言ったかどうかは別にして、日本がドル売り円買いに走ると売られやすいのは米国債。それは困ると、協調介入したのだろう。

 

 次世代の技術開発を、官民の投資で行うことは重要だ。しかし、度を越した場合その国の将来を怪しくするのではないか?日本政府にも、そのリスク管理は必要である。

 

民主社会主義勢力の行方

 奇妙なことだが、ウクライナに侵攻したプーチン大統領、イラン戦争を引き起こしたネタニヤフ首相とトランプ大統領は、そろってこの秋に議会選挙を控えている。選挙の結果を少しでも良くしようと、一時的に戦闘が激化する可能性はある。

 

 米国の中間選挙まであと2ヵ月。予備選はそろそろ終盤で、ようやく共和党対民主党の本選挙モードになろうとしている。両党とも一枚岩ではなく、特に民主党では穏健派と呼ばれる旧勢力に、急進左派ともされる民主社会主義勢力が挑み、そこそこの戦果を挙げている。

 

 何度も大統領選予備選を戦ったサンダース議員や、次の大統領選挙への出馬が噂されるオカシオ=コルテス議員、ニューヨークのマムダニ市長らが代表的な人たちである。主張は「普通の人が普通に暮らせる(アフォーダブル)街を作る」というもの。

 

        

 

 かなり激しいムーブメントなのだが地域差はあるようで、都市部では強い民主社会主義者も地方ではさほどの威力はない。ある調査では「民主社会主義」という言葉を理解しない有権者が1/2いるという(*1)。理解している人が多く、かつ問題が切実な都市部と地方とは違うということだ。 

 

 トランプ大統領がかの勢力を「共産主義者」とレッテル貼りしたことで、言葉の意味を理解できていない人はヘイトするかもしれないから、本選の結果は予断を許さない。ところでこのムーブメントに乗りたいのか、本当の共産主義者たちが応援演説を始めた。

 

2026米中間選挙 進歩派勝利 ミネソタでも/「国民は真の変革望む」/サンダース氏ら支援/民主党上院予備選 | しんぶん赤旗|日本共産党

 

 私自身は、日本共産党を頭から否定する政治スタンスではない。主張には見るべきところもあるし、ちゃんと調査ができる政党だと思っている。しかし今回の<赤旗記事>はいただけない。日本の読者が、米国有権者以上にこのムーブメントを理解しているとは思えないからだ。東京でも住宅が高いとの批判はあるが、米国のそれとではケタが違う。

 

NYの子育て世帯、年収2500万円でも最低ライン…卵12個で950円 : 読売新聞

 

 市民が置かれている彼我の差をちゃんと伝えることなく、ムーブメントに乗ろうという意図なら遠慮された方がいいと思う。

 

*1:民主社会主義、米国民の約半数が意味を理解せず=世論調査 | ロイター