梶浦敏範【公式】ブログ

デジタル社会の健全な発展を目指す研究者です。AI、DX、データ活用、セキュリティなどの国際事情、今後の見通しや懸念をお伝えします。あくまで個人の見解であり、所属する団体等の意見ではないことをお断りしておきます。

検索ではなく、要約・回答が求められ

 私的なブログを始めて、あしかけ10年になる。この公式ブログも丸3年続けてきた。特段多くのアクセスがあるわけではないが、自らの行動記録として書いている。それでも時々<アクセス解析>のデータを見ていて、この数ヵ月の変化に気付いた。それはアクセス元で7割近かった「Google検索」が、首位ではあるが4割まで減ったこと。「はてなブログ」や「Bing」などからのアクセスが増えてきている。

 

 理由が分からなかったのだが、この記事を見て納得した。

 

かつて成功したブログ100個のうち約半数はGoogleのAI導入などで検索トラフィックの85%以上を失った - GIGAZINE

 

歌舞伎座B1の店舗、トラフィック少

 「AI Overview」の登場で、ユーザー(視聴者)が要約だけ見て満足してしまい、実際のブログサイトに来てくれないのだとある。AIがサーチする量は爆増しているからトラフィック全体は増えているのに、クリックを経てサイトに来てもらうトラフィックは減少傾向にある。

 

 私のブログは収益化出来るような内容でも、アクセス数でもないので問題ないのだが、これで収入を得ている人には大打撃と思われる。そして、個人ではなく法人でも同じような問題が起きているようだ。

 

グーグル検索からの流入が激減。中小企業が今すぐ取るべき顧客獲得戦略 | Forbes JAPAN 公式サイト(フォーブス ジャパン)

 

 法人の営業目的サイトでも、「検索」ではなく「要約」されるようになってクリック数が減っている。これは新規顧客開拓をサイトに頼っている中小企業には、大問題だとある。中小企業でも、SEO(検索エンジン最適化)の手法を採ってアピールすると、検索上位にランクされ商談が増える傾向にあった。その手法が、もはや古くなったとこの記事は言う。

 

 これもAIの一つの余波なのだろう。「検索エンジン」は、より便利な「要約・回答エンジン」に進化し、個人の副業を圧迫し、企業間格差を広げてしまう。サイト(SEO)によるマーケティングは有用な手段ではあるが、あくまでその一つ。AI時代も営業職は無くならないと感じさせられた、ネット社会の変化だった。

 

イランの米国本土攻撃

 米国・イスラエルのイラン攻撃から、半年が経とうとしている。海上や航空、宇宙で圧倒的な戦力を持ちながら、米軍がイランを屈服させることは出来そうもない。一方のイランだが、イスラエルや湾岸の米軍基地に対する攻撃は出来ても、米国本土に脅威を与える戦力はあまりない。

 

・トランプ大統領に1,000万ドルの懸賞金

・メラニア夫人や息子のバロン君を標的とした動画

 

 など暗殺をほのめかした嫌がらせをしている程度だが、在米の工作員によるテロ行為やサイバー空間での攻撃はあり得る話。現に開戦早々、米国の医療機器メーカーにサイバー攻撃をかけている(*1)。その後サイバー攻撃の続報が無かったのだが、とうとう本命である重要インフラへの攻撃がやってきた。

 

エルサレム郊外からヨルダン川西岸地区を見る

米ミネソタ州「30超」の水道システムにサイバー攻撃、州政府が緊急対応 |ビジネス+IT

 

 すでに2020年には、イランがイスラエルの水道に類似の攻撃をかけている。イスラエルも反撃し、両国間で応酬があった。経緯は不明だが、2021年にフロリダのある町で上水道の水酸化ナトリウム濃度が100倍になる事件もあった(*2)。

 

 ミネソタ州はカナダに接する北中部の州で、緑と水が豊かな寒冷地。もっと南の、今熱波に襲われ干ばつが起きている州で起きたなら、大きな被害が出たかもしれない事案である。その意味で、イラン側は、まだ「節度を保った攻撃」をしている可能性すらある。

 

 その手法はすでにフロリダで実証済み、水道というアナログシステムをデジタル制御するためのIoT機器としてPLC(Programable Logic Controller)が使われていて、これらに脆弱性があるのだ。水道事業者は(日本でもそうだが)比較的零細な事業者が多く、ITの専門部署やセキュリティ技術者を雇っていないところも少なくない。またITの専門部署もオフィス機器は管理していても、IoT機器については関与していないこともある。

 

 さて、イランのサイバー部隊は次に何を仕掛けてくるのだろうか?

 

*1:イランは「超限戦」を解き放った - 梶浦敏範【公式】ブログ

*2:イスラエル対イラン、サイバー空間の暗闘 - 梶浦敏範【公式】ブログ

半導体関連産業の事業継続計画

 10年経って、熊本地区を再びM7越えの大地震が襲った。ショッピングモールのガス爆発や工場の煙突倒壊があって、40名近い人命が失われた。現地では未だに多くの市民が、酷暑や水不足の中で避難生活を強いられている。一刻も早いインフラ復旧を望みたい。

 

 世界最大の半導体ファウンダリ企業TSMCが操業していることもあり、この地区には半導体・自動車部品関連企業の製造事業所が多い。それらも当然被災しているのだが、

 

〈熊本地震〉製造業への影響を分析、TSMC、ルネサス、ホンダ…半導体や自動車の生産への影響は限定的 2ページ目 | ビジネス | 東洋経済オンライン

 

 にあるように、被害は限定的で徐々に操業を再開しているという。それを可能にしたのは、10年前の地震の経験とそれに裏打ちされた事業継続計画(BCP)があったからである。

 

大宰府天満宮の境内

 BCPという概念は、2001年のワールドトレードセンタービル倒壊から顕著になったもの。拠点が機能を失っても、迅速に機能を復旧させる計画のことである。特に重要インフラについては、その必要性が求められた(*1)。

 

 私は2003~07年ごろ、企業のBCP関連ソリューション拡販に関わっていた。今のサイバーセキュリティと同じ、直ぐには利益を生まないBCPを経営者にどう理解してもらうかに苦慮したものだ。

 

 BCPは日本では金融機関に広まり、その次に半導体産業に採用されるようになった。これは米国(例えばビッグテック)が、発注側としてこの業種にBCPを強く求めたからである。ある小規模だが世界的なシェアの高い日本企業は、工場に免震床を入れ、緊急時の部材搬送用にヘリコプターを契約していた。

 

 今回のTSMC、ソニー、ルネサスらも、大きな被害は受けずに、設備の調整や物流ルートの復活を待っている。BCPは確かに効果を上げたのだ。

 

 ただ、ルネサスエレクトロニクスには寂しい報道もあった。かつて主力事業所だった高崎事業所を閉めるという(*2)。現役時代先輩・後輩・知り合いの多かった事業部門で、一つの時代が終わったなとの思いである。

 

*1:重要インフラの事業継続計画 - Cyber NINJA、只今参上

*2:ルネサス、半導体製造子会社の高崎工場を閉鎖へ…設備老朽化し生産継続難しく : 読売新聞

スーパーエルニーニョが飢餓をもたらす

 猛暑/酷暑の中、熊本県ではまたも大地震が発生し、多くの人々が電力や水のインフラが機能しない状況での避難生活を余儀なくされている。消防や自衛隊の救難活動には頭が下がる思いだ。

 

 自然災害は世界中(特に北半球)で顕著で、欧州や北米では大規模な干ばつ、中国では逆に洪水が起きている。識者によると温暖化で極地の氷が溶け、偏西風の勢いが弱まって蛇行を始め、太平洋ではスーパーエルニーニョ現象が起きている。その結果、偏西風の左側にあたる中国などでは寒気が入って大雨、右側にあたる欧州・北米では雨が降らず高温になっている。降雨というリソースが偏在してしまったわけだ。

 

 スペインやフランスの山火事が収まらず、ボルドー市街まで火の手が近づいているという。欧州の主要河川で水位が下がり、河川輸送が困難になっている。もちろん農作物にも、甚大な被害がありそうだ。

 

ローマ近郊の葡萄畑

 米国では中西部の干ばつに加え、農家が高騰した肥料を買えなくて困っているとの報道もある。ホルムズ海峡封鎖は、産油国米国の経済にも悪影響をもたらしているのだ。穀物輸出国ウクライナとロシアは戦争中、お互いの輸送船を黒海で沈め合っている。ウクライナの穀物はドナウ川経由でドイツなどに輸送することもできるのだが、そこも水位が下がって輸送手段として使えない。

 

 こうなると、80億人にまで増えてしまった人類の食料などが確保できるのかと言う危惧が出てくる。 

 

史上最大の類人猿、森の環境変化で絶滅 中国で化石分析 - 日本経済新聞

 

 この例から調べてみたのだが、体重60kgの雑食哺乳類が生き延びるには1人あたり1.5㎢の草原や森林が必要である。それで支えられる人口は1億人が精々。だから、農耕や輸送が滞れば、飢餓は間違いなく発生する。20世紀にも、

 

・1932~34年のソ連、ホロドモールという飢餓で330万人余りが亡くなった

・1959~61年の中国、中華人民共和国大飢饉で数千万人が亡くなった、正確な数は不明

 

 といった悲劇があった。この2件の原因は自然災害にもあるが、独裁的な為政者の失政もあった。戦争・紛争・干ばつ・山火事等々が原因の世界的飢餓が起きないか、とても不安である。

 

妄言に滲んだ米国のインテリジェンス

 先月トランプ大統領は、11月の中間選挙の趨勢が良くないと見て、得意の演説を行った。すでに共和党を有利とするために幾多の手段を駆使していて、

 

・共和党優位の州で、より多くの議席を確保できるよう選挙区割りを変更

・ニューヨーク市長に代表される民主党左派勢力を、共産主義者とレッテル張り

・選挙支援委員全員を解任し、管理監督能力を無力化

・投票時の本人確認を厳格化する(Save America)法案を推進

・大統領選挙時にしか行わない共和党大会をテキサス州で開催

 

 となりふり構わぬゴリ押しだ。しかし郵便投票を禁じる大統領令は、地裁・高裁で違憲判決が出て実現できていない。

 

 焦りも見られる演説の中で、トランプ大統領は「2020年の大統領選挙には、中国が2.2億人分の有権者情報を窃取して介入し(自分は負け)た*1」と述べた。

 

    

 

 根拠を示さない内容だったが、その後数日間米国のインテリジェンス機関が裏付け情報を公開するかどうか迷っているとの報道があった。しかし、結局裏付け情報は出てこなかった。なにしろ「風力エネルギーが不安定で、大規模な停電が起きてテレビも見られなくなった」とありもしない事を思い出せ(*2)と迫るような人物である。やっぱり妄言/虚言だったのかと、私も一旦は思った。

 

 しかし昨年、韓国で2つの巨大情報漏えい事件があった。ひとつはSKテレコム、2,500万人分のデータが流出。もうひとつはECサイトクーパン、3,300万人分のデータが中国人従業員に持ち逃げされた。全人口の、5割・6割分にあたる個人情報である。中国政府が韓国国民のデータを集め、これを分析して世論操作や選挙への介入を考えている可能性は否定できない。

 

 ひょっとすると米国インテリジェンス機関は上記のように考え、米国でもあり得ると大統領にレクチャーしたのかもしれない。それを覚えていた大統領は「2020年選挙が盗まれた」との思い込みで、レクチャー内容を歪めて話したのではないか。妄言の中にもインテリジェンスは潜んでいる・・・そんな仮説を考えさせる事案だった。

 

*1:トランプ氏、20年選挙に中国が干渉と主張 米情報機関評価と矛盾 | ロイター

*2:【分析】「あれを覚えているか?」 起きたことのない出来事を国民に思い出すよう求めるトランプ氏 - CNN.co.jp

リープフロッグの失敗事例なのか?

 世界経済の中でインドの次に出てくる大国は、アフリカではナイジェリア、アジアではインドネシアではないかと言われている。インドネシアは3億人近い人口を抱え、民主主義国家でもあるので期待が集まっている。

 

 イスラム教徒が大半を占めるのだが、原理主義的な「技術の発展は認めるが、社会の発展は認めない*1」などという教義ではない。だからインターネット経済も発展していて、配車プラットフォーム(*2)を手掛ける「Gojek」のようなデカコーン企業すら生まれている。この企業の創設者のひとりナディエム・マカリム氏は、ハーバード大学在学中に一時帰国してこの企業を作った。同国を代表するテックエリートである。

 

    

 

 彼は2019年に同社を辞め、2期目のジョコ政権で教育相に就任した。国中に溢れる若い人材にテック教育を施し、国力を飛躍的に高めることが期待されていた。しかし現政権になって彼は汚職の容疑で逮捕され、今回懲役10+α年の有罪判決が出た。

 

インドネシアの元教育大臣が、学校のデジタル化プログラムにおける汚職の罪で懲役10年の判決を受けた。

 

 容疑は、教育用のノートPC120万台を購入したものの、利用が進まず1億2,000万ドルの損失があったというもの。この事案を「汚職」と検察は主張し、これが認められた形だ。確かに、インターネットも電力も不十分な地区の教室にノートPCだけ配っても、何かができるわけではない。教材も教員も不十分だったはずだ。

 

 日本では本件の報道があまりないので推測してみるしかないのだが、上記のような不足があることを見過ごしたエリートであるマカリム氏のミスはあったかもしれない。しかし失敗が汚職にまでつながるのは、もう少し何かの意識が働いていた気がする。あからさまに言えば、反エリート意識だ。

 

 インドネシアのような国では、インフラが不充分なゆえリープフロッグ的なイノベーションの期待がある。一方、そういう変革を理解もできず好まない人たちが、エリートの足を引っ張る・・・という構図だったのかもしれない。インドネシアの国としての発展の在り方について、しばらく見ておく必要があるだろう。

 

*1:シャリーアのみによる統治 - 新城彰の本棚

*2:後にフードデリバリーや電子ウォレットなどにサービスを拡大

外交組織を狙ったゼロデイ攻撃

 仮に今ほど国際関係が緊張していなかったとしても、外務省は極めて重要な官庁組織である。平和な時代には、儀典関係者と通訳だけでいいと予算が多いことを皮肉られたこともあったが、日本で創設されようとしている「対外情報庁」の機能のある程度は、外務省に依るところになる。インテリジェンス機関なので、それ自身の情報保全には最大の努力を払うべきだ。今回「他山の石」ではあるが、隣国で参考とすべき事案が発生した。

 

韓国外交官「ほぼ全員」の情報流出か 国立外交院への不正アクセスで最大1万件 現地報道 - ITmedia NEWS

 

 韓国の外務省傘下にある国立外交院の教育システムに侵入者があり、外交官全員を含む1万人規模の個人情報が流出したとある。主な原因は、システムの未知の脆弱性に付け込まれたことで、いわゆる「ゼロデイ攻撃」である。

 

        

 

 侵入は昨年の春から今年の2月まで続いていたとあるが、なぜ今になっての発表なのかは報道されていない。狙われたのはオンライン教育システムで、教育を受けた人物の氏名・ID・メルアド・パスワードなどが漏えいしたと思われる。

 

 しかし外交官を単に教育しただけでなく、評価などした結果もそこにはあっただろうし、ひょっとすると正規の外交官以外の協力者情報も交じっていたかもしれない。インテリジェンスに関わっている軍人はもちろん含まれていただろうし、仮に韓国が中国やロシア、北朝鮮などから得ているインテリジェンスの情報源情報でも漏れたとしたら、その情報源の命にもかかわる重要な個人(!)情報である。

 

 韓国の外務省そのものには、手練れのハッカーも侵入できなかったのだろうが、委託先の国立外交院のシステム防御はそれほど固くなかったと思われる。いや、国立外交院もちゃんと守っていたましたよというのであれば、ひょっとすると在外公館からオンラインで教育を受けるルートで侵入されたのかもしれない。在外公館は(日本もそうだが)零細企業のようなもの。十分な情報管理をする人材を、置けていない可能性がある。

 

 インテリジェンス能力強化には賛成なのだが、委託先や在外公館のような弱い輪をどう守るか、外交部署に問われる課題である。