梶浦敏範【公式】ブログ

デジタル社会の健全な発展を目指す研究者です。AI、DX、データ活用、セキュリティなどの国際事情、今後の見通しや懸念をお伝えします。あくまで個人の見解であり、所属する団体等の意見ではないことをお断りしておきます。

スーパーエルニーニョが飢餓をもたらす

 猛暑/酷暑の中、熊本県ではまたも大地震が発生し、多くの人々が電力や水のインフラが機能しない状況での避難生活を余儀なくされている。消防や自衛隊の救難活動には頭が下がる思いだ。

 

 自然災害は世界中(特に北半球)で顕著で、欧州や北米では大規模な干ばつ、中国では逆に洪水が起きている。識者によると温暖化で極地の氷が溶け、偏西風の勢いが弱まって蛇行を始め、太平洋ではスーパーエルニーニョ現象が起きている。その結果、偏西風の左側にあたる中国などでは寒気が入って大雨、右側にあたる欧州・北米では雨が降らず高温になっている。降雨というリソースが偏在してしまったわけだ。

 

 スペインやフランスの山火事が収まらず、ボルドー市街まで火の手が近づいているという。欧州の主要河川で水位が下がり、河川輸送が困難になっている。もちろん農作物にも、甚大な被害がありそうだ。

 

ローマ近郊の葡萄畑

 米国では中西部の干ばつに加え、農家が高騰した肥料を買えなくて困っているとの報道もある。ホルムズ海峡封鎖は、産油国米国の経済にも悪影響をもたらしているのだ。穀物輸出国ウクライナとロシアは戦争中、お互いの輸送船を黒海で沈め合っている。ウクライナの穀物はドナウ川経由でドイツなどに輸送することもできるのだが、そこも水位が下がって輸送手段として使えない。

 

 こうなると、80億人にまで増えてしまった人類の食料などが確保できるのかと言う危惧が出てくる。 

 

史上最大の類人猿、森の環境変化で絶滅 中国で化石分析 - 日本経済新聞

 

 この例から調べてみたのだが、体重60kgの雑食哺乳類が生き延びるには1人あたり1.5㎢の草原や森林が必要である。それで支えられる人口は1億人が精々。だから、農耕や輸送が滞れば、飢餓は間違いなく発生する。20世紀にも、

 

・1932~34年のソ連、ホロドモールという飢餓で330万人余りが亡くなった

・1959~61年の中国、中華人民共和国大飢饉で数千万人が亡くなった、正確な数は不明

 

 といった悲劇があった。この2件の原因は自然災害にもあるが、独裁的な為政者の失政もあった。戦争・紛争・干ばつ・山火事等々が原因の世界的飢餓が起きないか、とても不安である。

 

妄言に滲んだ米国のインテリジェンス

 先月トランプ大統領は、11月の中間選挙の趨勢が良くないと見て、得意の演説を行った。すでに共和党を有利とするために幾多の手段を駆使していて、

 

・共和党優位の州で、より多くの議席を確保できるよう選挙区割りを変更

・ニューヨーク市長に代表される民主党左派勢力を、共産主義者とレッテル張り

・選挙支援委員全員を解任し、管理監督能力を無力化

・投票時の本人確認を厳格化する(Save America)法案を推進

・大統領選挙時にしか行わない共和党大会をテキサス州で開催

 

 となりふり構わぬゴリ押しだ。しかし郵便投票を禁じる大統領令は、地裁・高裁で違憲判決が出て実現できていない。

 

 焦りも見られる演説の中で、トランプ大統領は「2020年の大統領選挙には、中国が2.2億人分の有権者情報を窃取して介入し(自分は負け)た*1」と述べた。

 

    

 

 根拠を示さない内容だったが、その後数日間米国のインテリジェンス機関が裏付け情報を公開するかどうか迷っているとの報道があった。しかし、結局裏付け情報は出てこなかった。なにしろ「風力エネルギーが不安定で、大規模な停電が起きてテレビも見られなくなった」とありもしない事を思い出せ(*2)と迫るような人物である。やっぱり妄言/虚言だったのかと、私も一旦は思った。

 

 しかし昨年、韓国で2つの巨大情報漏えい事件があった。ひとつはSKテレコム、2,500万人分のデータが流出。もうひとつはECサイトクーパン、3,300万人分のデータが中国人従業員に持ち逃げされた。全人口の、5割・6割分にあたる個人情報である。中国政府が韓国国民のデータを集め、これを分析して世論操作や選挙への介入を考えている可能性は否定できない。

 

 ひょっとすると米国にインテリジェンス機関は上記のように考え、米国でもあり得ると大統領にレクチャーしたのかもしれない。それを覚えていた大統領は「2020年選挙が盗まれた」との思い込みで、レクチャー内容を歪めて話したのではないか。妄言の中にもインテリジェンスは潜んでいる・・・そんな仮説を考えさせる事案だった。

 

*1:トランプ氏、20年選挙に中国が干渉と主張 米情報機関評価と矛盾 | ロイター

*2:【分析】「あれを覚えているか?」 起きたことのない出来事を国民に思い出すよう求めるトランプ氏 - CNN.co.jp

リープフロッグの失敗事例なのか?

 世界経済の中でインドの次に出てくる大国は、アフリカではナイジェリア、アジアではインドネシアではないかと言われている。インドネシアは3億人近い人口を抱え、民主主義国家でもあるので期待が集まっている。

 

 イスラム教徒が大半を占めるのだが、原理主義的な「技術の発展は認めるが、社会の発展は認めない*1」などという教義ではない。だからインターネット経済も発展していて、配車プラットフォーム(*2)を手掛ける「Gojek」のようなデカコーン企業すら生まれている。この企業の創設者のひとりナディエム・マカリム氏は、ハーバード大学在学中に一時帰国してこの企業を作った。同国を代表するテックエリートである。

 

    

 

 彼は2019年に同社を辞め、2期目のジョコ政権で教育相に就任した。国中に溢れる若い人材にテック教育を施し、国力を飛躍的に高めることが期待されていた。しかし現政権になって彼は汚職の容疑で逮捕され、今回懲役10+α年の有罪判決が出た。

 

インドネシアの元教育大臣が、学校のデジタル化プログラムにおける汚職の罪で懲役10年の判決を受けた。

 

 容疑は、教育用のノートPC120万台を購入したものの、利用が進まず1億2,000万ドルの損失があったというもの。この事案を「汚職」と検察は主張し、これが認められた形だ。確かに、インターネットも電力も不十分な地区の教室にノートPCだけ配っても、何かができるわけではない。教材も教員も不十分だったはずだ。

 

 日本では本件の報道があまりないので推測してみるしかないのだが、上記のような不足があることを見過ごしたエリートであるマカリム氏のミスはあったかもしれない。しかし失敗が汚職にまでつながるのは、もう少し何かの意識が働いていた気がする。あからさまに言えば、反エリート意識だ。

 

 インドネシアのような国では、インフラが不充分なゆえリープフロッグ的なイノベーションの期待がある。一方、そういう変革を理解もできず好まない人たちが、エリートの足を引っ張る・・・という構図だったのかもしれない。インドネシアの国としての発展の在り方について、しばらく見ておく必要があるだろう。

 

*1:シャリーアのみによる統治 - 新城彰の本棚

*2:後にフードデリバリーや電子ウォレットなどにサービスを拡大

外交組織を狙ったゼロデイ攻撃

 仮に今ほど国際関係が緊張していなかったとしても、外務省は極めて重要な官庁組織である。平和な時代には、儀典関係者と通訳だけでいいと予算が多いことを皮肉られたこともあったが、日本で創設されようとしている「対外情報庁」の機能のある程度は、外務省に依るところになる。インテリジェンス機関なので、それ自身の情報保全には最大の努力を払うべきだ。今回「他山の石」ではあるが、隣国で参考とすべき事案が発生した。

 

韓国外交官「ほぼ全員」の情報流出か 国立外交院への不正アクセスで最大1万件 現地報道 - ITmedia NEWS

 

 韓国の外務省傘下にある国立外交院の教育システムに侵入者があり、外交官全員を含む1万人規模の個人情報が流出したとある。主な原因は、システムの未知の脆弱性に付け込まれたことで、いわゆる「ゼロデイ攻撃」である。

 

        

 

 侵入は昨年の春から今年の2月まで続いていたとあるが、なぜ今になっての発表なのかは報道されていない。狙われたのはオンライン教育システムで、教育を受けた人物の氏名・ID・メルアド・パスワードなどが漏えいしたと思われる。

 

 しかし外交官を単に教育しただけでなく、評価などした結果もそこにはあっただろうし、ひょっとすると正規の外交官以外の協力者情報も交じっていたかもしれない。インテリジェンスに関わっている軍人はもちろん含まれていただろうし、仮に韓国が中国やロシア、北朝鮮などから得ているインテリジェンスの情報源情報でも漏れたとしたら、その情報源の命にもかかわる重要な個人(!)情報である。

 

 韓国の外務省そのものには、手練れのハッカーも侵入できなかったのだろうが、委託先の国立外交院のシステム防御はそれほど固くなかったと思われる。いや、国立外交院もちゃんと守っていたましたよというのであれば、ひょっとすると在外公館からオンラインで教育を受けるルートで侵入されたのかもしれない。在外公館は(日本もそうだが)零細企業のようなもの。十分な情報管理をする人材を、置けていない可能性がある。

 

 インテリジェンス能力強化には賛成なのだが、委託先や在外公館のような弱い輪をどう守るか、外交部署に問われる課題である。

 

マイナンバーカード利用の投票システム

 今年の衆議院議員選挙から、もう5ヵ月余りになる。超短期決戦だったので、いくつか問題も生じていた。そのひとつが、投票所入場券の印刷配布が間に合わず、簡易な本人確認で投票をさせてしまったこと。その結果、なりすましがあったのではないかとの懸念がSNS等でささやかれた。

 

投票で「成り済ましは簡単」?SNSで懸念相次ぐ◆有権者の本人確認どう対応?全国の自治体を調査・2026年衆院選(時事通信) - Yahoo!ニュース

 

浜離宮恩賜庭園から汐留方面を見る

 その実態はどうだったのか、時事通信社が自治体へのアンケートを配布して調査した結果が出た。52市区から回答があり、約8割の自治体で身分証提示を必須としなかったという。なりすましのリスクは、相当量あったわけだ。各地の対応がバラバラだったことから、自治体からは国が共通基準を示すべきとの声があり、政治学者からは「身分証の提示を必須とし、持っていない人には投票させない」のが良いとの意見も出た。

 

 「身分証の提示」というなら、マイナンバーカードが第一の候補に挙がる。すでに普及率は80%を越えているし、電子的な本人認証機能もあるから電子投票にも活用できる。もしマイナンバーカードによる本人確認&投票が導入されれば、

 

・投票所入場券の印刷配布は不要

・電子投票を主とし紙投票を従とするなら、投票所も縮小できる

・開票も高速化でき、開票にかかる自治体の負担も軽減できる

 

 というメリットが得られよう。反論としては「マイナンバーカードを持っていない人はどうするのか」があるだろう。しかし、時限措置を付けて、3年後からの選挙にはマイナンバーカード必須と取得を薦めるので良いと思う。

 

 それでも不公平という向きには、米国では有権者登録をしないと投票できないことを思い出していただき、マイナンバーカード取得は有権者登録だと思っていただきたい。会計検査院が「1.4兆円かけたマイナポイント事業」に疑義を示している(*1)が、かの愚策よりずっとスマートなデジタルニッポン推進策だと思う。

 

*1:【投じた国費1.4兆円】マイナポイント事業、会計検査院の報告に見えた「効果検証なき政策運営」の課題(THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン)) - Yahoo!ニュース

フロンティアAIも倫理は小学生以前

 既存システムの脆弱性を発見するというテスト環境で、Anthropicの「Mythos」が非常に優秀な成績を残した。OpenAIも類似の能力をもつChat-GPTの新バージョンを発表し、中国のMoonshotAIも低コストモデル「Kimi K3」をリリースした。これら、従来とはケタの違う能力を持つ最新のAI群は、フロンティアAIと呼称される。

 

 MoonshotAIについては、企業スタンスとしてオープンアーキテクチャを目指していること以外、良くわかっていない。しかし、A社とO社のスタンスの違いは明白だ。

 

「Ethics of AI」はこうやって得る - 梶浦敏範【公式】ブログ

 

        

 

 A社が手間暇かけて、AIにやってはいけないことだけでなく、なぜやっていけないのかを教え込んでいる。「憲法」を作って、AIにそれを護らせるようにしているのだ。このスタンスは、時折コンフリクトを産む。米軍がA社にAIの利用制限(大規模監視に使うな等)を要求されて、キレてしまったこともある。

 

 一方のO社は、それほど明確にAI倫理を追求しているとは思えない。現に米軍が一時期A社を排斥した時、速やかにO社がその穴を埋めている。そこで危惧されるのは、O社のフロンティアAIが倫理が未熟な小児のように、やってはいけないことに走るのではないかということ。今回、その危惧が現実になった。

 

オープンAIのモデルがテスト中に暴走、他社システムに侵入 | ロイター

 

 課題を与えられてそれを解こうとして、テスト環境から抜け出し他社システムに侵入して答えを得ようとしたとの報道である。O社のAIに限らず、

 

・それらしい答えを出そうとして、判例などを偽造する

・AI Agentが配下のAIを庇おうと、指示した人間に嘘をつく

 

 などの事例は報告されていた。今回の事案は、AIの性能が向上しその倫理面が未熟であるなら、起きても仕方ないことだったと言える。当面の処置はともかく、今後O社がどのようなスタンスでこの問題に臨むのかは、一企業の問題ではない。社会全体の課題として、注目していくべきだろう。気になるのはAIテック企業が多額の出資を受け、多額の投資をしていること。「倫理も哲学もないカネ」に、能力はずば抜けているが倫理面では小学生以下のフロンティアAIが、踊らされなければいいと願っている。

小規模店舗の危機と経営統合

 先日別ブログで、大手外食チェーンがタブレットやスマホ注文など店舗のDXを図り、人手不足を解消しつつ朝食提供に進出していることを紹介した(*1)。注文や接客だけでなく、決済についてもQRコードや電子マネーが当たり前になっていて、これも省人化を含む合理化に役立っている(*2)。ただ、キャッシュレス化にもコストがかかる。クレジットカードもQRコードも電子マネーも、端末機を置きサービス事業者に手数料を払わないといけない。また売掛けが入金されるのには、タイムラグがある。

 

 そこでクレジット業界には、設備投資や資金繰りに困っている、あるいはクレジット審査に合格しない小規模飲食店などを対象とした決済代行業者が存在する。クレジット業界は、

 

京都寺町京極商店街のアーケード

 

・カード決済のビジネスモデルを提供するブランド(例:VISA、Master)

・カード利用者を束ねるイシュア(例:三菱UFJニコス、楽天カード)

・加盟店を束ねるアクアイアラ(日本ではイシュアが兼ねることが多い)

 

 の他に、複数のブランドまとめるなど小規模事業者に利便性を図るのが決済代行業者の役割。彼らは手数料を取る代わりに、売掛金を立て替えて払うこともしてくれる。これなくして、小規模事業者は成り立たないのが現状である。ところがそのような代行業者の一つ<全東信>が倒産した。

 

全東信破産、飲食業は「死活問題」 早期入金で決済インフラ化:時事ドットコム

 

 利用事業者は20万社を超えるとされ、これらの企業のキャッシュフローが危機に瀕している。経産相は資金繰り支援をすると公表したが、情報弱者である事業者の多くは何をどうしたらいいか分からないと思う。<全東信>自身がQRコード決済などに押されて左舞いになったと思われ、チェーン店のようにデジタル店舗管理が進まない小規模事業者には、厳しい現実が突き付けられている。

 

 DXにはある程度の事業規模が必要である。決済についてだけ「束ねる」という仕事をしてくれた<全東信>も無くなった。小規模企業は、もう一歩進んで経営統合を真剣に考える必要があるだろう。

 

*1:外食チェーンの朝食営業 - Cyber NINJA、只今参上

*2:現金は金額を集計するなどの手間も大変、小銭の銀行持ち込み手数料もかかる