梶浦敏範【公式】ブログ

デジタル社会の健全な発展を目指す研究者です。AI、DX、データ活用、セキュリティなどの国際事情、今後の見通しや懸念をお伝えします。あくまで個人の見解であり、所属する団体等の意見ではないことをお断りしておきます。

サイバー防御の組織体制論議(前編)

 時々呼んでもらえるのだが、イベント会社が主催して10名ほどの企業人を集め、DXやセキュリティ、AI活用など本音をぶつけ合う会合に今回も参加した。私とある国会議員、スポンサーのソリューションベンダーの3者でプレゼンテーションし、10名の参加者に意見を述べ、できれば議論してもらおうというクローズドな会である。今回のテーマは、AIとセキュリティ。堰を切ったようにサイバー被害が報道され続け、被害急増の主原因はAIの悪用ではないかと言われる中での開催である。

 

 国会議員の先生からは、政府や自民党の取り組みが紹介され、今回の内閣改造で従来はAIとセキュリティが別の大臣管掌だったが、今回は両方とも古川大臣が担当することになったとの説明だった。AI×セキュリティは政府も意識しているよということ。

 

雨にけぶる六本木界隈

 私からは、AI時代であっても基本のキ(ITガバナンスとサイバーハイジーン)を徹底するのが重要で、中期的にはITシステムの整理統合や廃棄を進めて護るべきものをへらすべしと述べた。その後意見交換から主に組織体制をどうするかの議論になったのだが、参加者の中に興味深い実務家がいた。

 

 米国で教育を受けていて、日本に戻っても早々に会社勤めを辞め、ベンチャーを興した。M&Aされたかどうかは不明だが、鶏の嘴から牛の(尻ではなく)内臓になるように、大手金融機関でデジタル部門(200人ほど)の長になっているという。

 

 金融機関の中でも機動性ある業種とはいえ、金融庁の管轄下にはあるわけで、ベンチャー時代のように自由気ままな組織運営はできない。特にデジタル化とセキュリティを担当する部署なので、責務も重い。200名の運営をどうやっているのか?他の参加者からも質問が相次いだ。

 

・(コストセンターなのに)予算どうやって確保していますか?

・優秀な人員は勝手なことをするので、どうやってマネジメントしていますか?

・人材を集めるのに、苦労していませんか?処遇はどうしていますか?

 

 などである。

 

<続く>

公共事業が支える地方の建設業

 今年度上半期の統計データが出始めているが、目立つのは「倒産・過去最高」の言葉。いろいろな業種で、倒産が増えているという。居酒屋などの飲食店、社会福祉事業、経営コンサルなどと並んで、建設業の倒産も増えている。主な原因は人手不足。

 

 田中政権での「日本列島改造ブーム」の頃は、公共事業が盛んで多くの建設業が地方で輩出した。その多くは零細規模で、「ひとり親方」などというものもあった。公共事業が白眼視されて予算が減らされると、地方の建設業は疲弊していった。今は、作ってしまったインフラをどう維持していくか、資金面でも人材面でも困難に直面している(*1)。

 

茨城県での県道トンネル掘削工事現場

 私も参加させてもらって「インフラマネジメントをどうしよう」と国交省で議論しているときに起きたのが「簗大臣事件」。選挙区の中で首長が自分を支援しなかったり、自分の得票が低かったりした自治体への道路予算を削ったという疑惑だ。最大64%カットされた自治体もあった。

 

 予算が1/3になれば、予定していた主な道路補修は出来なくなってしまう。現に、

 

簗氏が名指しの2市町、止まった工事 「投票しないと予算減は恫喝」 [栃木県] [簗和生農林水産大臣]:朝日新聞

 

 という状況にある。この疑惑が事実なら、このような政治家は存在すべきではない。即刻大臣どころか、議員も辞職して欲しいと思う。予算が無いということは、工事を受注できたかもしれない建設事業者の経営も狂わせた。事業者がいなくなれば、次年度予算が正常化されても、受注して作業をしてくれる人もいないのだ。

 

 是非の議論はあるだろうが、国交省ではない公共事業もある。

 

防衛予算8.8兆円の恩恵、自衛隊と取引する最多業種は建設業 | Forbes JAPAN 公式サイト(フォーブス ジャパン)

 

 軍事には土木工事(Engineeringの語源)がつきもの。防衛省以外にも、新しい建設需要はある(エネルギー関連やデータセンター建設)。地方の建設業が新しい需要に対応できるよう、自治体や有識者も含めた協力が必要だと思う。

 

*1:インフラマネジメント戦略小委員会発足 - 梶浦敏範【公式】ブログ

日米財界人会議はトランプの敵!

 今月ワシントンDCで、日米財界人会議が開催された。この会合は、両国の産業界の大物が集い、時事を議論し連携・協力を図るもの。私も数年間デジタル政策関連で、意見を述べる役など貰い、参加させてもらった会議である(*1)。

 

 ほぼ70年近い歴史があり、日本の経営者にも英語を使って議論ができる人が出てきて、会合が活性化される方向にある。これはとても喜ばしいことだ。ただ国際情勢が緊張し、米国政府の挙動が怪しい現状で、どこまで突っ込んだ議論ができるかが興味を引いた。結果が伝えられたところでは「政治は政治、日米産業界はあるべき協力をする」とのことで、しかるべき共同声明も発表された。

 

2019年の会合でディナー会場となったウィラードホテル

 まず「投資」については、日本から米国への巨額投資が(関税優遇との引き換えに)約束されているのだが、一方的ではない相互投資として扱われている。実際ビッグテックが、日本にデータセンターを設けるなどの投資をしている。

 次に「AIをはじめとする先端技術」だが、AIリスクを回避・軽減するため両国政府にAIガバナンスを求め、『広島AIプロセス』を遵守するよう提言した。「経済安全保障」についても、両国間のサプライチェーン強化の議論がなされたという。

 

 まずは妥当な結論と思うのだが、妙なリスクも見えてきている。それは、数ある暴挙/暴言の一つとして、トランプ大統領がこんなことを言っていること。

 

トランプ大統領、用語として「AI」を使い続けている人は「敵と見なす」…用語「SI」の定着促す : 読売新聞

 

 言葉を変えるのが好きな人物で、自分の意に染まない者は敵視するのが常道。「敵」を造ったり敵味方を明示(分断)して、功成り名遂げた人ではある。この論によれば、日米財界人会議はトランプの「敵」になってしまう。

 

 ある会議関係者は、財界人会議の準備の都合上「SIに修正する時間がなかったのよ」とも言うのだが、私としては敢然と「AIはAIだ」との意思を示してくれたものと信じている。

 

*1:日米財界人会議2019(前編) - Cyber NINJA、只今参上

  日米財界人会議2019(後編) - Cyber NINJA、只今参上

中国のデータ覇権は許さない

 米国事情に詳しい人によると、トランプ大統領は中間選挙を巻き返すのは無理と悟ったらしい。そこで自らの目標を一つに絞った。つまり大統領在位の2年間で膨大に増やした自分や家族の資産を護る・・・の1点にである。もちろん不正蓄財なのだが、自分や家族を恩赦することで、それが可能と踏んでいるらしい。

 

 だから内政も外交もどーでもいいので、習近平国家主席を招いて派手に振舞ったわけである。ただそんな「親中」のムードの中でも、米国の覇権を担う人たち(*1)は、できる限りの中国封じ込めを考えている。その一つの効果が現れたのが、こちらの記事。

 

焦点:中国肝いりの物流情報網、忽然と姿消す 「通商上の兵器」と米が危惧 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト

 

        

 

 多少影が差しているとはいえ、金融(カネの流れ)の中心はまだ米国である。主な決済はドル建てで行われ、誰と誰がいつどのような取引を行ったかは、その決済網が把握する。これが米国の覇権を支える大きな柱の一つだ。

 

 しかしモノの流れについては、中心は中国に移りつつある。いつどこにどこから何が運ばれたかの情報を、中国が握ろうとしたのが記事にいう「LOGINK」の運用・拡大である。中国はかなり前からデータ主権を主張していて、どんな国外の情報でも欲しがるし、どんな国内の情報でも出したがらない。

 

 古くは日米や太平洋諸国がTPPの草案を練った時、国境を越えるデータの自由を盛り込んだが、中国はこれに反発していた。SHEIN・TEMUなどのECサイトを使っての消費者情報収集や、Huaweiの5Gルータに通信データを盗聴されるとの危惧もあった。

 

 そして物流の世界でも「LOGINK」が大きくなってゆけば、中国のデータ覇権を支える柱になるところだった。上記の記事によれば、2010年(鳩山内閣?)に日中韓でデータ共有に合意し、三ヵ国でシステム連携し欧州とも接続することを考えていた。しかし2022年米国(バイデン政権)が警戒感を高め、待ったをかけたとある。トランプ政権になってもその圧力は収まらず、ついに野望はついえたと思われる。

 

 トランプ政権の誰か(例えばマスク氏)が気付けば、揺り戻しもあったかもしれない。今回は、「西側」にとって幸いだったと思われる。

 

*1:インテリジェンス機関などは、随分リストラされてしまっている

BSAカンファレンスを協賛しました

 激しい雨が降る日、久しぶりに<東京ミッドタウン>にやってきた。目的はこのイベントに参加すること。

 

BSAカンファレンス「AIとサイバーセキュリティ:官民連携によるサイバー対処能力の強化~AI時代の新たな脅威 に備えて~」 << Business Software Alliance

 

 BSA(Business Software Alliance)はデジタル系業界団体のひとつ、外資系企業だけでなく日系企業も加入している。AIの驚異的な進歩によって、サイバー空間での脅威が高まっている。これに対し、各国政府やビッグテックはどうしようとしているのかを、元大臣、政府機関の人、民間識者が講演などし、数ヵ国の大使館員もコメントするという国際的な会合である。

 

基調講演をし、受賞もした平前デジタル大臣

 前デジタル大臣の平議員は、BSAのデジタル外交チャンピオン賞を今回受賞して、基調講演と授賞式に出席した。講演では、大臣時代にACD法を制定するなど日本政府のセキュリティ関連法整備をしたことを説明した。

 

ラウンドテーブルの模様

 その後、10名以上の識者が集まってラウンドテーブルを実施。テーマは「官民連携とAIサイバー防衛」である。日本では、国家サイバー統括室(NCO)が設立され、AI Safety Institute(AISI)も活動を開始している。ただそれだけでは、防衛に十分ではない。発言者の意見はおおむね、同じところに収斂してくる。それはテーマにもある官民連携。

 

 NCOやAISIにも、民間人材は相応に入っている。政府は適切な規制改革を行い、民間が、AI活用にもAI防御にも動きやすくすることが必要。民間は政府任せではなく、自ら安全を確保するための提案や活動をする必要がある。

 

 このカンファレンスは、経団連やJEITA、ビッグテック各社と並んで私の所属するシンクタンクも協賛・後援をした。会合後のパーティも含めて、初めて会う人(特に各国大使館員)や懐かしい人と意見交換ができた。AI時代のセキュリティのためには官民連携・・・は当たり前なのだが、当たり前のことができないのも事実。このようなアクションで、少しでも実現に近づけられたらと願う次第である。

 

AI投資も、そろそろ回収期に入る?

 生成AIの活用は、裾野が大きく広がっている。世界中の異なるバックグラウンドの人が使えるので、思わぬアプリケーションが産まれるというのも珍しくない。今回目に付いたのは、こんな話。

 

「塾代を払うよりChatGPTやGeminiを使って」と保護者に勧め、塾が教室を閉鎖へ - GIGAZINE

 

 学習塾が、自らの講座よりも生成AIの方が優位(教え方は同等でもコストが1/900)であると認め、廃業するという。日本でも中国でも、子供の塾の費用は結構な家計の負担。貧困家庭の体験格差が問題になる中、学習塾や家庭教師のビジネスには影響大だが、教育格差の縮小には役立つかもしれない。ただ、気になるもう一つの記事がある

 

中小企業向け「手頃なAI」の時代、間もなく終焉へ | Forbes JAPAN 公式サイト(フォーブス ジャパン)

 

        

 

 AI利用企業で、その利用を増やしたり、より高度なモデルを導入したりすることでコストが増大している。さらに記者はNetflixの値上げなどを引用して、AIサービスの値段が高騰するかもしれないと示唆している。

 

 これは理にかなった話で、これまでAI開発企業は膨大な投資をしてきた。その規模は米国国債の地位を脅かすほどで、ある意味米国政府以上の借金王である。投資は、いつかは回収しなくてはならない。

 

 先端AI開発企業たちは「まだまだ投資が必要で、研究開発も加速させる」つもりだったのだが、昨今ブレーキを踏む発言が出始めた(*1)。これはAIの性能が上がりすぎて人類の脅威になるという理由だが、うがった見方では、

 

・これまでのように投資が性能向上に直結しなくなり、目標未達の怖れが出てきた

・これから追随してくる新興のライバルの足を止めたい

 

 と彼らが考えている可能性もある。もしそうだとするならば、いつまでも借金王でいるわけにもいかない。なるべく早く「安く使ってもらう普及モード」から、「なるべく高く売りつける回収モード」に事業スタンスを変えなくてはいけない。その可能性を、各社のCEOの発言から探ってみたいものだ。

 

*1:成長市場だとの指摘は嬉しいのだが - 梶浦敏範【公式】ブログ

運転免許証の映像が盗まれて・・・

 このところ、サイバー攻撃による被害事案が急増している。先週もその状況については紹介し、AIによるもの、言語の壁の無力化、被害に気付くようになったこと、隠していたものが表に出てきたなどの複合要因ではないかと申し上げた(*1)。

 

 昨年の今頃はランサムウェアで身代金を要求された、払わないと事業継続ができない・・・という事例が流行していた。今回は事業継続ではなく、情報漏えいの報告が目立つ。私の知人も自社の被害状況を「ランサムは逃れた。事業継続は出来ているのだが情報を抜かれていて、どの程度をなのかを確かめている」と教えてくれた。

 

 情報漏えいは、1件にクオカード1枚で済ませる時代ではなくなっている。盗まれた情報がどこでどう使われるのか、二次的な被害がどうなるかが読みづらく、空恐ろしい面がある。特にインテリジェンスに関わる人の情報などは、危険極まりない(*2)。

 

    

 

 今回の被害の中で特に二次被害が懸念されるのが、カーレンタルの<パーク24>の運転免許証画像漏えい。被害件数660万件で、免許証画像もこのうち160万件ほど流出したとの報道もある。

 

タイムズカー免許証画像流出、集団訴訟準備サイトに1万人超登録 責任追及へ弁護士が開設 - 産経ニュース

 

 運転免許証の映像は、口座開設やスマホの申し込み、クレカの申請などに使われ、個人の金融資産に影響を及ぼす可能性が高い。盗んだ犯人が不明で、二次被害の公算が高いことから、<パーク24>を相手取った集団訴訟が起きるようだ。すでに1万件の申し込みがあったという。

 

 問題視されるのは<パーク24>の情報管理である。レンタルサービス時の本人確認に、運転免許証と本人画像を使うのはいいとして、サービス終了後までその情報を保持していたことが問題だ。取引記録の一定期間の保持は必要(*3)だったろうが、免許証画像そのものは必要なかったはず。

 

 「情報は必要最小限を保持すること。不要なものはさっさと消す」は重要な情報管理原則である。

 

*1:堰を切ったように被害が・・・ - 梶浦敏範【公式】ブログ

*2:これは「狙われた」事案、その後は? - 梶浦敏範【公式】ブログ

*3:ひき逃げ事案などの捜査用に