梶浦敏範【公式】ブログ

デジタル社会の健全な発展を目指す研究者です。AI、DX、データ活用、セキュリティなどの国際事情、今後の見通しや懸念をお伝えします。あくまで個人の見解であり、所属する団体等の意見ではないことをお断りしておきます。

中国のダイナミックな大学改革

 生成AI、AI-Agent、フロンティアAIなどが登場して、労働市場に大きな変化が起きている。「AIが雇用を奪う」という懸念は、これから社会に出ようという若者たちにとっては、懸念ではなく今そこにある危機となっているようだ。このことは、日本だけではなく、より合理主義の強い米国と中国でも大きな危機となって若者に降りかかっている。

 

 両国とも大学などの高等教育にかかる費用が日本よりずっと大きく、奨学金を含む負債を背負った卒業生が、それを返済できる職種に就けないと社会不安すら引き起こしかねない。特に中国では、大学卒業生が一度に1,200万人も出てくる。彼らが満足できる就職口は、決して十分ではない(*1)。

 

京都妙心寺退蔵院の庭、砂紋を引くのも禅の修行

 その中国で、ダイナミックな大学改革が進んでいると<Forbes誌>はいう。

 

中国、「時代遅れ」の大学課程1万2000以上を削減 多くをAI関連に置き換え | Forbes JAPAN 公式サイト(フォーブス ジャパン)

 

 全過程の3割が入れ替えとなっていて、削減されたのは、人文科学や芸術、外国語、一部の経営学である。増設されるのが、AIやロボット工学、半導体工学、AIを活用する先進製造業

 

 年間学生数にすると、約360万人分の人文講座が、AI・半導体などの理系講座に替わることになる。一党支配の国ゆえのダイナミックな変身だが、学生だけでなく教授陣や大学の施設にも大きな変化が求められる。学年で360万人分の理系講座で教えられる、新しい教授陣をどうやって確保するのだろうか?

 

 また、外国語学科が削られるというが少し気になる。確かにAI翻訳によって外国語習得の価値は下がった面がある。しかし外国の文化を知り、その国を理解して外交交渉、文化交流をするには外国語の知識は必要だ。今世紀半ばには中国覇権ができあがり、各国が中国語を話して朝貢してくる世界ゆえ、中国での外国語教育は要らないと考えているのかもしれないが。

 

*1:高給ブルーカラーという新しい階層 - 梶浦敏範【公式】ブログ

子供のSNS禁止措置、ではAIは?

 英国のスターマー政権は、16歳未満の子供たちがSNSを使うことを禁じることになった。来年からの施行を目指すという(*1)。SNS利用に年齢制限を求める措置は、多くの国で始まっている。調べてみると、

 

■禁止している国

・オーストラリア(16歳未満)

・ブラジル(14歳未満、14~16歳は親の同意要)

・マレーシア(16歳未満)

・インドネシア(12歳までは子供向けのみ可、15歳までは低リスクのSNSのみ可)

 

■法案が成立し禁止しようとしている国

・フランス、キプロス、トルコ(15歳未満)

・イタリア(14歳未満)

 

■禁止を検討している国

・デンマーク、ギリシア、ノルウェー(15歳未満)

・スペイン(14歳未満)

 

 このほか米国のいくつかの州と中国(14歳未満は利用制限、18歳未満には時間制限)が子供へのSNS規制をかけている。

 

最初の規制国オーストラリアのオペラハウス

 ある種のデジタルコミュニケーションを、子供のうちに使うことに弊害があると考えての措置である。一方AIとのチャットも類似のコミュニケーションだが、その規制はどうなっているのだろうか?世界で最初に規制したのは米国カリフォルニア州。2026年1月に施行された州法では、AIのサービス事業者に対し、利用者の年齢確認をしたうえで、

 

・自殺等危険な兆候を検知した場合の介入義務

・未成年には不適切な内容のフィルタリング義務

 

 など未成年者保護のための監視・安全設計を求めている。米国連邦政府も、18歳未満のAIチャット規制を検討しているとの情報もある。

 

 欧州は「AI Act」の中で、子供の脆弱性を悪用するAIを禁止し、感情を操作するAIコンパニオンはハイリスクAIとして制限し、特に教育分野のAIはハイリスクに分類して厳しく規制している。AIチャットではなく、子供を対象とするAIそのものを規制しているわけだ。

 

 まだ各国、SNS規制と似たAIチャット規制は導入していないが、早晩議論が始まり法制化する国も出てくるだろう。日本はどうするべきなのだろうか?

 

*1:英政府が16歳未満のSNS禁止措置を発表、来春にも施行したいと首相 - BBCニュース

日本の株主総会も変わった

 6月後半は、株主総会の季節。日本企業は株式会社と言っても、小口株主を増やすための株主優待(*1)、社員に株式を持ってもらう仕組み(*2)、他の企業との持ち合い(政策保有株)等々、大口株主が自社に都合の悪い要求を突き付けてこないような防衛策を採っていた。ただこれでは、株主のメリットが削がれる。米国に代表される株主資本主義は、日本企業にもアクティビストが活躍できるような株主総会に向けた「改革」を求めてきた。

 

 日本企業もコーポレート・ガバナンス・コードの改訂や、自ら海外市場で上場した経験を積むなどして、徐々に「改革」を進めてきた。今年の株主総会では、いくつも面白い現象が起きている。

 

・KADOKAWAでは、夏野CEOの解任を求める議案が提出されたが否決された

・東京電力HDでは、原発の賠償基金設立提案があったが否決される

・日産自動車では、みずほ銀行出身の取締役が支持48%で再任されなかった

 

かつて株主優待券でよく食べた牛丼

 アクティビストの提案は年々増えていて、今年はすでに140以上の企業で提案が確認されているという。社長・会長の解任を求めるものも、KADOKAWA以外に中部電力などでも提案された。

 

 株主総会で議論される内容も、変化しつつある。総会を済ませてきたある金融機関の役員とパーティで会ったのだが、

 

・冒頭社長の説明は、40%がサイバーセキュリティ対策やリスク管理に充てられた

・当該部分は自分が原稿を書いて、社長と相談をして練り上げ、役目を果たした

・今年はこの件について厳しい追及はなかったが、来年はどうなるか分からない

 

 とほっとした表情で語っていた。失われた30年の主犯は、ひょっとしたら漫然と株式保有をしてきた株主にあるかもしれないと思っていた(*3)が、その改善が進んできたのなら歓迎すべきことである。

 

*1:例えば外食チェーンなどでは、100株でも相応の優待になるが、1,000株でもその倍程度の優待にしかならない

*2:給与から定額で自社株式を自動購入、株価が高いと少しだけ、安いとたくさん買えるので従業員にはお得感がある

*3:株主そのものの体質改善 - 梶浦敏範【公式】ブログ

個情法改正、大臣の勘違い(後編)

 松本大臣はドクターヘリに搭乗する「空飛ぶ医師」、ドラマ「コードブルー」の監修も務めた。救急救命の現場から、医療DXの重要性やデータ活用の必要性は熟知している。マイナンバー(&カード)の普及によって、救える命が失われるのを防ぎたいとの想いが強い。その大臣が何を勘違いしているかというと、データは消したら消えるものと思っておられること。

 

 かつて「桜を見る会の名簿がある、ない」の騒ぎになった時、私は担当官が必死に消して廻っても、必ずどこかにはあると申し上げた。アイコン「ごみ箱」、ハードディスクの自動バックアップ、メモリのキャッシュなど、インターネットに流出していなくても手元のPCやクライアントサーバシステムのどこかに、データは残るものなのだ(*1)。

 

旧古河庭園の老松

 データの提供元では氏名・住所と病歴等のデータは両方必要。受領側では氏名・住所は要らないという時、どちらが個人を特定できるデータを消すべきかと言えば、提供元でなくてはならない。受領側がナマデータセットAを受けとり、個人特定情報を消してセットBを作り、Aを消したとしよう。

 

 受領側の担当者は消したつもりでも、上記のように、受領側システムのどこかにセットAは残っているものなのだ。極端に言えば、初期化したハードディスクからでも、データは復元できる。セットBを作るために一時預かりしたセットAを、受領側が消してそれを証明する努力は大変なものになる。そんな労力を払うくらいなら、こんなデータセットは要らないと受領側は言うだろう。

 

 松本大臣が「AI植民地になる」との危機感からデータ活用を促進されることには敬意を表するものの、デジタルリスクについても十分な理解をしていただきたい。データの流通は「Society5.0」のためには必要なこと、しかしそれにはリスクが伴うので、安全な社会スキームの中で行うべきであることも認識願いたいものである。

 

*1:シンクライアントとサーバー - Cyber NINJA、只今参上

  アイコン「ごみ箱」の効能 - Cyber NINJA、只今参上

個情法改正、大臣の勘違い(前編)

 個人情報保護法は、3年ごとの見直しが行われる。本来昨年が見直し時期だったが、諸般の事情で遅れ(*1)、今年の通常国会に改正案が掛けられている。すでに与党優勢の衆議院を通過、参議院で審議中である。改正の骨子は4点ある。

 

1)適正なデータ利活用の推進

2)リスクに適切に対応した規律

3)不適正利用防止等

4)規律遵守の実効性確保のための規律

 

 政府と産業界でもめたのが、4)の課徴金制度。これに何とか目途がつき、1)の利活用推進として「同意なき情報提供」を可としようとしている。良いAIの育成には大量のデータが必要なので、欧米含めて規制緩和の方向になっている。今、参議院で激論になっているのは、この部分である。

 

浜離宮恩賜庭園のアヤメ

【社説】個人情報保護法の改正案 人々の不安を直視して審議を尽くせ:朝日新聞

 

 野党が激しく追及しているのは、AI等の育成のために氏名・住所付きで犯罪歴や病歴などの要配慮個人情報も本人の同意なく流通し、利用されてしまうこと。これに対し松本デジタル大臣は、

 

「このままではAI植民地」 デジタル相が危機感:時事ドットコム

 

 との強い危機感から、データ流通を通じた利活用を促進したい考えだ。データを利用(AIを育成)したい側からは、氏名・住所などは不要、精々仮名で十分との声も聞かれるのだが、大臣はそれでは流通が進まないと考えているようだ。例えば、

 

「CT画像の端には氏名が書いてある。これをわざわざ消さないと渡せないでは、渡そうとする機関が減る」

 

 と医師らしい例を挙げて説明している。確かに他人のために(ただでさえ忙しい病院が)ひと手間かけるというのでは、提供者は減る。だから受益者たる受領側が手間をかけて個人を特定できる情報を消せばいいということ。

 

 これに対し野党は「性善説でいいのか」と受領側に悪意がある場合を追求し、大臣は「性善説でいいとは言わないが、性悪説では全く動かない」と理解を求めた。一見まともなやり取りに見えるのだが、追及している野党はともかく大臣は大きな勘違いをしているのではないかと思う。

 

<続く>

*1:個人情報保護法見直し指針 - 梶浦敏範【公式】ブログ

リニアという巨大なストロー

 日本の大都市で、大規模再開発プロジェクトが頓挫している。東京都港区や東京駅周辺などでは超高層ビルが乱立しているのだが、<中野サンプラザ>や新宿、品川ですら計画中止が取りざたされるほどだ。

 

市街地再開発、延期相次ぐ 資材高騰、中東情勢で混乱(共同通信) - Yahoo!ニュース

 

 注目したのは、この記事にもある名古屋駅周辺の再開発計画。高島屋の入っている<JRセントラルタワー>は人を集めているが、その隣にある古い百貨店は建て替え時期が来ている。かつての名古屋駅では、当時の国鉄より私鉄である名古屋鉄道や近畿日本鉄道の方が、利用客が圧倒的に多かった。名鉄百貨店や近鉄百貨店は、そのころ大いに賑わった。

 

名古屋鉄道名古屋駅、頻繁に列車がくる

 ただ名古屋駅周辺には鉄道用地が少ないため、私鉄は地下駅である。特に名古屋鉄道の地下駅は狭くて、使い勝手が悪い。百貨店でもある駅ビルと地下駅の改装は、市民の悲願でもあった。しかしそれが、人手不足・資材高騰・資金不足などで頓挫していて、すでに閉店した百貨店の跡をどうするかも決まっていない(*1)。

 

 再開発は長い年月(10年ほどか?)をかけたものになる。完成後どのような状況になっているか、予測が難しくカネが集まらないのだ。

 

・百貨店の業態があるのか

・今のように人が列車で移動するのか

・駅周辺に人が集まってくるのか

 

 大都市といわれる名古屋でも、10年後の賑わいが確信できないのである。巷間言われていない「不透明な原因」がある。それは<リニア新幹線>。

 

名古屋駅再開発、市の懇談会がリニア視察 市長や名鉄社長らが乗車 - 日本経済新聞

 

 この記事では、地元の官民共同会議体のメンバーがリニア実験線を視察して、名古屋駅前再開発を考えたと述べている。リニアについて期待をしているとも、危惧しているとも書かれていない。恐らくはその両方だったのだろう。

 

 リニアが開通すると、名古屋~品川間は40分で結ばれる。すると名古屋圏の人は、名古屋駅周辺で消費をせず、品川(東京)へ行ってしまうかもしれない。リニアは巨大なストローと化すのだ。その時、名古屋駅前に求められることは何だろうか?

 

*1:名鉄、名古屋駅再開発に「新たなパートナー」検討 投資規模は縮小へ - 日本経済新聞

AI時代の大学生、不満と不安

 MetaのCEOザッカーバーグ氏が、SNS「Facebook」を立ち上げたのは学生時代。決して万人受けする性格ではなかったようで、映画「ソーシャル・ネットワーク」では、

 

「あなたは最低の人間ではないが、そう見える生き方をしている」

 

 との言葉を浴びせられている。この映画は2010年公開のものだが、映画に描かれた彼の性格は、15年経っても変わっていないように思う。

 

メタ、人員削減の理由を率直に説明…浮いた資金はAI投資に回す | Business Insider Japan

 

 AIが雇用を奪うというのは、ずっと前から語られてきた危惧。昨今ビッグテックなどは雇用を減らしているが、Meta社の特徴は、はっきり「人件費⇒AI投資」と言ってしまったこと。「最低の会社ではないが、そう見える行動をしている」という次第。

 

東京駅周辺でみかけたゴーカートの群

 ザッカーバーグ氏の学生時代にはAIの脅威はなかったが、今春大学を卒業する人たちには大いなる危機感がある。

 

米国の大学卒業式、AIの未来を語る祝辞にブーイング――学内では制限、新人の仕事まで変えるAIへの不安 #エキスパートトピ(佐藤仁) - エキスパート - Yahoo!ニュース

 

 「AIの台頭は、次の産業革命だ」と祝辞の中で述べた投資会社幹部は、ブーイングの嵐を浴びた。NVIDIAのファンCEOは「AIを使って米国を再工業化しよう」と呼びかけ、これには賛否両方の評価があったらしい。全てがカネの投資会社と、工業化で雇用を増やせると考えるNVIDIAの違いが出た形だ。

 

 それにしても大学生はAIにどう向き合うのだろう?論文の剽窃や試験のカンニングを恐れる大学(教員)側は「AIを使うな」というのに、社会人になれば上司に「AIをうまく使え」といわれる。新人社員がOJTの第一歩で学ぶデータ整理や文書作成は、AIがやってしまっている。彼らは経験を積む前に、ベテランAIとの競争にさらされるわけだ。

 

 大学生はAI時代に求められるスキルを大学で学べるか不満に思っているし、そんな状態で社会人になったらどうなるか不安に思うだろう。時代を見通せるはずのザッカーバーグ氏らは、彼らにどんな応援メッセージを送っているのだろうか?