梶浦敏範【公式】ブログ

デジタル社会の健全な発展を目指す研究者です。AI、DX、データ活用、セキュリティなどの国際事情、今後の見通しや懸念をお伝えします。あくまで個人の見解であり、所属する団体等の意見ではないことをお断りしておきます。

サイバー空間での国家主権

 日本に留学していた時に、SNS上で「香港独立」を主張したとして、香港人の女性が帰国してから逮捕された。2020年に施行された国家安全維持法に違反した容疑である。

 

日本留学中に「香港独立」に関する書き込み、香港の女子大学生を逮捕…国安法初の域外適用 : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)

 

 この記事は、国安法の域外適用だとしている。この女性が法に触れる行為をしたとされるのは日本にいた時で、通常なら香港の法律で裁かれることは無い。しかし近年種々の法律の域外適用は増えていて、そのひとつだというのだ。

 

 私が経験したことでいうと、欧州の個人情報保護法GDPR)が日本においても適用されたのが最初だった。例えば欧州からの旅行者の情報(住所・電話番号等)を、日本の旅館が漏洩したらこの法律で裁かれるというわけ。巨額の罰金が適用される可能性もある。

 

        

 

 日本の法律も域外適用をしているケースがある。個人情報保護法などデジタル関係の法令だけでなく、フィリピンやカンボジアから犯罪指揮をしていた集団が、日本に移送される航空機内で逮捕される案件もあった。

 

 ただ今回のケースで、中国の国安法に関しては、域外適用ではないと思う。それはこの違反容疑が日本で行われたというより、サイバー空間で行われたと中国当局は考えているからだ。中国で2021年に制定されたデジタル基本3法は「サイバー空間は国家主権の範囲」との前提で運用されている。中国国防法では「主権たるサイバー空間に攻撃が加えられたら、国家への攻撃とみなす」というくらいなのだから。

 

 サイバー空間には本来国境はなく、国境を置くことも難しい。本来なら科学技術発展によって利用されるようになった南極を各国が領土としないことを定めた「南極条約」に類した条約をサイバー空間でも締結すべきだった。しかしもうその可能性は小さくなり、サイバー空間は各国の思惑が交差する無法地帯に近い状態である。

 

 本件はG7会合でも議論し、条約は無理でも、内外に強いメッセージ(サイバー空間は国が支配するものではない)を出して欲しいと思う。