梶浦敏範【公式】ブログ

デジタル社会の健全な発展を目指す研究者です。AI、DX、データ活用、セキュリティなどの国際事情、今後の見通しや懸念をお伝えします。あくまで個人の見解であり、所属する団体等の意見ではないことをお断りしておきます。

全世界売上げの〇%の罰金

 先週、英国でネット上の有害情報を規制する法律(*1)が成立した。きっかけはネット上の自傷行為を助長する情報を得て、14歳の少女が自殺した事件。SNSや関連サイトにはこの種の情報が一杯あって、野放し状態になっていることも事実である。この法律は情報をネット上に揚げた者ではなく、SNSやサイトの運営事業者を対象として、

 

・18歳未満のユーザに、有害情報を見せないこと

・13歳未満のものには、アカウントを与えないこと

 

 を求めている。インターネットは(本来)全ての人に解放されているべきものなのに、アクセス権やアカウント発行条件を定めよと言っている。すでに先例はあって、総務省は「フィルタリング・サービス」を提供することで、Microsoftは「Kids Mode」で青少年を有害情報から守る取組みをしている。

 

 ただこの法律には、事業者に実罰が科せられることが含まれていた。

 

        

 

 違反した事業者に科せられる罰金の最大は、

 

・1,800万ポンド(約33億円)

・全世界売上げの10%

 

 のうち低くない方である。英国の法律ではあるのだが、サイバー空間に国境がないことから「全世界の売上げ」が対象になっている。少しニュアンスは違うがある種の「域外適用」であり、巨大ITをはじめとするグローバル企業を「主敵」と見ているようだ。

 

 このような罰金を最初に見たのは、欧州のGDPR(一般データ保護規則:*2)。軽度な違反については1,000万ユーロか全世界売上げの2%、重度な違反については2,000万ユーロか4%の罰金が科せられる可能性がある。

 

 次には、やはり欧州のハイリスクAIの規制案(*3)。違反者には3,000万ユーロか全世界売上げの6%の罰金が科せられる可能性がある。

 

 懲罰的なものであり、そのレートがどんどん上昇しているのが気になる。4%でも驚いたのは、利益率がそんなに高くない企業にとってはその罰金で年間利益が全部吹き飛ぶ規模だからだ。これが10%となれば、企業の存続自体に障害が出かねない。どこかでキャップをかけないと、健全なインターネット経済の発展を阻害すると思われる。

 

 

*1:英 ネット上の有害情報から子どもを守るための法律が成立へ | NHK | イギリス

*2:2016年成立、2018年施行

*3:2021年に提案され、現在法制化の準備中