サイバー空間での動きは眼に見えない。その上サイバー空間には国境がなく、国内法が適用される保証もないし、そもそも「有体物法」ではデータの窃盗などは罪に問えない。加えて技術の進歩や、適用分野やシーン(*1)の広がりが極めて速い。法規制を検討しようにも、
・技術に詳しく、適用分野にも詳しく、かつ法律に詳しい専門家が必要
・法案ができても、この意図や内容を一般市民に正しく伝えるのは難題
・政治家の理解も不足しているし、メディアも上手く伝えられない
・世界に通用する条約など作るには、全く時間が足らない
の状況で、容易ではない。そこでデジタル政策では、そのアイデア段階から官民の知見のある人が(立場を越えて)集まって議論する必要があった。そこで民間側が常に言い続けたのは「ハードローは最後の手段、可能な限りソフトローで規制すること」だった。
これを理解してくれたのが日米両政府。民間有識者や業界団体の意見を政府が十二分に取り入れた上で、大枠を決めていった。一方、デジタル技術は人権を脅かしかねないとの意識が強く、デジタル系の有識者・業界団体の声もやや少ない欧州では、デジタル政策は官主導で作られる傾向にある。その結果強力な罰則付きのハードローが登場することになる。
今回のAI規制論でも、その風潮は変わらない。欧州議会は6月にAI規制の承認を圧倒的多数で採択した。
欧州議会の「AI Act」 - 梶浦敏範【公式】ブログ (hatenablog.jp)
まだ法律そのものが成立したわけではないが、日米に先行してハードロー規制をしようとしている。一方のバイデン政権だが、AIによる画像作成に関し政府とAI関連主要7社と協議し、以下の自主ルールを定めたという。
◆透明性
・AI製コンテンツと分かるように表示するシステムを開発
・自社のシステムの能力やリスクを政府・国民と共有
・AIがもたらす社会的懸念の研究を実施
◇安全性
・サービス発表前に差別助長やサイバー攻撃のリスクを評価
・発売後も問題点を第三者が発見・報告する仕組み
日本政府の方針は明示されていないが、おそらく米国に近いソフトロー規制から議論をスタートすることになるだろう。ハードローでは、動きの速いこの技術がもたらす社会変動に追随できないと思われるからだ。
*1:アプリケーションと総称できる