梶浦敏範【公式】ブログ

デジタル社会の健全な発展を目指す研究者です。AI、DX、データ活用、セキュリティなどの国際事情、今後の見通しや懸念をお伝えします。あくまで個人の見解であり、所属する団体等の意見ではないことをお断りしておきます。

大きな枠組みの議論を期待する

 先週、日本にセキュリティ・クリアランス(SC)制度を導入する「重要経済情報保護及び活用に関する法律案」が衆議院を通過し、参議院に送られた。この制度に関しては、私も2年ほど研究してきて、

 

・機密情報を、例えば重要インフラのサイバー防御に使うために有用

・そのために、民間人まで含めた適性評価は必要だが、それで十分か

 

 と意見を述べてきた(*1)。公務員は「特定秘密保護法」で適性評価の対象となり、罰則もあるのだが、同様のもしくはより機密性の高い情報に触れる可能性のある、政務三役やその秘書が適性評価の対象でないのは問題だと思った。

 

 衆議院での論戦では、唯一国民民主党がこの点を取り上げた(*2)が、政務三役含めた政治家への適用に関する修正は成されなかった。政治家にこれを求めることは、各国でも行われていないようだ。もし米国大統領候補に適用したら、またぞろ「選挙妨害だ、政治的迫害だ」と叫ばれてしまいかねない。

 

    

 

 野党の追及は「機密情報の範囲が明確でない」など、根幹とは言えない部分に終始(*3)した。リサーチ力で定評のある共産党も「米国との兵器共同開発につながるから怪しからん」程度の追及しかしていない。国民民主党を除き、野党の勉強不足が目立った。

 

 「明確でない」の批判に対して高市大臣は「基本的人権を侵害しない規定になっている」と回答。これは、この時点では仕方のないことだ。法律が制定されたら、各府省が法律に関する施行令・施行規則・ガイドライン等を作って、実務的にどうするかを定めてゆく。これらは国会など外部からの審議は経ないとはいえ、パブコメなど民間から意見を述べる機会はある。これらが定まらないと、企業実務としては体制・運用の仕方がわからないのだ。

 

 確かに法の主旨を超えて、施行令などが制定されて空文化してしまうことはある。しかし多岐にわたる業種や業務に即した何かを法律そのものに書き込むことなど不可能だ。国会にはいつも「大きな枠組みの議論」を期待しているのだが、今回もほとんど裏切られた形である。

 

*1:クリアランス制度の適性評価 - 梶浦敏範【公式】ブログ (hatenablog.jp)

*2:【衆本会議】浅野哲議員がセキュリティクリアランス法案に対する賛成討論 | 新・国民民主党 - つくろう、新しい答え。 (new-kokumin.jp)

*3:機密の範囲はヒミツです? 「経済安保情報保護法案」参院審議入りするのに、運用の詳細は「後で決める」 :東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp)