昨年末、ある意味珍しい判決が出た。噴霧器などを製造販売している大川原化工機の社長ら3名が逮捕・起訴されたものの、初公判直前に起訴が取り消された事件について、司法は「警視庁公安部と東京地検の捜査が違法である」として、国と東京都に賠償金支払いを命じた。
公安と検察の捏造に言及不足の大川原化工機判決 冤罪逮捕の社長らへの捜査の違法性は認める | 経営 | 東洋経済オンライン (toyokeizai.net)
この事件については、今回初めて知ったのだが、当該企業の噴霧器が炭そ菌などを散布する生物・化学兵器に転用できるかどうかが争点となったという。この記事によると、輸出された噴霧器は兵器転用できる仕様ではないと経産省は判断したのだが、警視庁公安部は「転用可能」とする有識者の判断を捏造して、経産省を説得したとある。
収監された人が癌を発病したにもかかわらず拘置し続けたことや、賠償の理由が「捜査を尽くさなかった」ことに矮小化されているなど、原告弁護士や世論には不満の残る内容だったかもしれないが、私はその点ではなく大きな不安を覚えた。
サイバーセキュリティ対策について、これまで総務省・経産省主導だった組織を改編して、より安全保障色の強いものにすることが検討されている。昨年末の経団連の会合に、公安調査庁の部長がゲストで来た時も、私は「デジタル政策は官民対等でないとうまくいかない」と官尊民卑傾向の強い治安機関に注意を促した(*1)。
大川原化工機の事件では、警視庁公安部が経産省や検察庁を引っ張る形で事件化していった様子が見て取れる。検察が唯々諾々と従ったとすれば大問題だし、経産省の抵抗を封じる捏造までしたという公安部の闇は深い。
サイバーセキュリティ問題になると、噴霧器の仕様よりずっと(専門家でないと)見えない部分が多くなる。公安系の人たちの意見が新しいサイバーセキュリティ対応機関で強くなることに、一層不安が増してきた事件だった。