梶浦敏範【公式】ブログ

デジタル社会の健全な発展を目指す研究者です。AI、DX、データ活用、セキュリティなどの国際事情、今後の見通しや懸念をお伝えします。あくまで個人の見解であり、所属する団体等の意見ではないことをお断りしておきます。

デュアルユースの重要技術課題

 先週、日本政府は総合的な防衛力強化に向けた関係閣僚会議を初開催した。その中のひとつの議題として、防衛力強化に資するデュアルユース(軍民両用)技術9分野を指定し、これらの分野の研究開発を支援していくことを決めた。

 

軍民両用の技術9分野、関係閣僚で指定 - 日本経済新聞 (nikkei.com)

 

 研究開発については、文科省以外の多くの府省が関係する。同日の日経紙にも経産省の施策として「AIなど先端分野研究支援の概算要求は、懸賞金型を倍増」させるとの記事があった。他にも、通信関係なら総務省、医療関係なら厚労省、バイオ関係なら農水省、土木技術なら国交省が管掌する。だから個別府省では出来ない調整を、関係閣僚会議でしようということだ。

 

    

 

 もうひとつ「日本学術会議」の影響なのか、軍事用途に転用可能な技術開発を忌避する傾向が日本の学界には多少なりと存在する。文科省だけでは、この風潮を改善できないとの考えもあるのかもしれない。

 

 その9分野を、日経紙は例を引いて紹介してる。

 

・エネルギー 太陽光や大容量バッテリー

△センシング 汚染物質等の高精度な測定

〇コンピューティング 膨大なデータ処理が可能な量子コンピュータ

〇情報処理 高度なAI、将来予測

〇情報通信 高速・大容量通信技術

◎情報セキュリティ サイバー防御、量子暗号

・マテリアル 耐久性の高い新素材

無人化・自律化 ドローンなどの無人

・機械 長距離・長時間の飛行技術

 

 昨今話題のサイバーセキュリティはまさにど真ん中だが、デジタル関連が(◎〇をつけた)4つ、デジタルと関係が深そうなものが(△をつけた)2つ。他のものも何らかの形でデジタル技術が関わってくる。

 

 これらの技術開発が促進されるなら、それは嬉しいこと。ただ気になることも残っている。研究側からすると、分野指定をされたことによって、

 

・これまで付き合いのなかった府省(例えば防衛省)への申請、報告などで手間をとられる

・技術情報管理などで、従来より厳しい措置を求められる

・特許の非公開などを強制され、健全な発展に水を差される

・万一情報漏洩など起こした場合に、厳罰が下されるリスクを負う

 

 などは心配だ。戦争の形態が変わり、ありとあらゆるものが武器として使われるようになった。一方で、特にデジタル分野で技術の劇的な発展が見られる。デュアルユース技術分野の指定はいいとして、その中で線引きが可能なのか?不可能ならすべてに規制を掛けるのか?それは一律の規制か?議論すべきことは山積している。