梶浦敏範【公式】ブログ

デジタル社会の健全な発展を目指す研究者です。AI、DX、データ活用、セキュリティなどの国際事情、今後の見通しや懸念をお伝えします。あくまで個人の見解であり、所属する団体等の意見ではないことをお断りしておきます。

異例の裁判官弾劾裁判

 先週、国会内の裁判官弾劾裁判所が、仙台地裁の岡口判事に対し「罷免」の判決を下した。裁判官というのは、法曹界の中でもひときわ狭い世界で、他の世界との交流も少ない。司法修習生を終えるときに、道を選ぶのだが、

 

・検察官は職務がハード、捜査検事などは時に命がけ

・弁護士は客商売、ビジネスセンスがないと行き詰る

 

 ので、安易に裁判官の道を選ぶ人もいるとも言われて(*1)いる。その世界から、自らの意思に反して放り出されるケースはめったにない。最高裁判事には「国民審査」という制度があるが、有権者が判事個々人のことを知ることはほとんどなく、この制度で辞めさせられた人はいない。

 

    

 

 しかし、裁判官にあるまじき(あるいは人としていがかかという)所業が明らかになった時には、国会議員がそれを弾劾することになる。これまで刑事事件を起こすなどして罷免されたケースは、戦後に7件あった。

 

 ただ今回のケースは、かなり特殊なもの。ある女子高生殺人事件に関し、SNSに不適切な投稿を繰り返したことが弾劾にあたるかは、裁判員を務めた議員らにとっても難しい判断だった。満場一致とはいかず、2/3以上という評決基準で弾劾が決まった(*2)という。

 

 問題となった投稿は、遺族の抗議にもかかわらず執拗に繰り返されたもの。その投稿自身は見ていないのだが、抗議があっても止めなかったというのはかなり悪質。裁判官全体の信頼を貶める行為だったと思われ、評決は妥当なものだったと思われる。

 

 それ以外にも岡口判事は、自らのブリーフ姿をUPしたり、弾劾が決まった後にも(反省の色なく)「裁判、ダメでした」と投稿している。裁判官としては評価の高い著書もある人物なのに、なぜこのような「不適切にもほどがある」行為をしたのか?ここからは私の推測だが、フォロワーが4万人にも達し、彼らにウケルなら何でもしようと思っていたのではないか。SNSには魔力がある。今狭い世界で暮らしてきた人が一人、それに憑りつかれたということだろう。

 

*1:法曹界の中のさらに狭い世界 - 新城彰の本棚 (hateblo.jp)

*2:岡口判事に「罷免」判決 表現行為で初、戦後8人目―SNS不適切投稿・弾劾裁判:時事ドットコム (jiji.com)