梶浦敏範【公式】ブログ

デジタル社会の健全な発展を目指す研究者です。AI、DX、データ活用、セキュリティなどの国際事情、今後の見通しや懸念をお伝えします。あくまで個人の見解であり、所属する団体等の意見ではないことをお断りしておきます。

Web3.0の足元の問題(後編)

 Web2.0では、ドメイン名は国際的な管理団体ICANNが衝突させないように、一元的に管理している。新しいドメインを申請すると、審査が行われて衝突しているようなら認可されない。しかしWeb3.0では、ICANNのような管理者は存在しない。しないだけではなく、いてはならないのがWeb3.0のポリシーなのだ。

 

 本当にそんなことができるのかについては、懐疑的な意見も多い。例えば、元MITメディアラボ所長の伊藤穰一氏は、仮想通貨を肯定し国家管理してはならないとしながらも「ICANNなどがガバナンスするのが望ましい」としている(*1)。メガバンク勤務経験がありフィンテックに詳しい京都大学の山本康正教授は、ビッグテックのビジネスモデル転換を期待しつつも「Web3.0には懐疑的」とも述べている(*2)。

 

    

 

 今回ある研究機関が、すでにWeb3.0のドメインを発行している2つのBlockchain Naming Service(BNS)を調査したところ、1,000万件中にBNS同士の衝突が約7,000件、BNSとICANNが管理するWeb2.0ドメインとの衝突が10件見つかったという。

 

 これはBNSそのものが、あるドメインの申請があるとこれをオークションにかけ、落札者に認可するからで、BNS同士の調整は行われていないことに起因する。識者(特に技術的識者)の間では、

 

・調整機構を置けばWeb3.0のポリシーに反するのでできない

・利用者の自己責任にゆだねるしかないかもしれない

 

 などと議論があるという。今後BNSの認可するドメインが増加し、またBNSそのものも増えていくと、今は1/1,000の確率での衝突だが、もっと増えていくことが懸念される。そもそも、衝突などあってはならないはずなのに・・・。Web3.0のごく一部の課題を見ただけだが、まだ社会実装には時間がかかりそうである。

 

*1:MIT流の未来社会論 - 新城彰の本棚 (hateblo.jp)

*2:テクノロジー教養講座、2023 - 新城彰の本棚 (hateblo.jp)