梶浦敏範【公式】ブログ

デジタル社会の健全な発展を目指す研究者です。AI、DX、データ活用、セキュリティなどの国際事情、今後の見通しや懸念をお伝えします。あくまで個人の見解であり、所属する団体等の意見ではないことをお断りしておきます。

FTCカーン氏の巨大IT叩き(前編)

 バイデン政権が誕生した時、人事として一番驚かされたのは、FTC(*1)のトップに当時32歳と若いリナ・カーン氏が就任したことだった。パキスタン人の両親からロンドンで産まれたコロンビア・ロー・スクールの准教授。専門は反トラスト法である。以前から巨大ITのM&Aによる拡大や市場支配に警鐘を鳴らしていて、FTCという公的権力で巨大IT叩きをすると思われた。

 

 しかし就任以降、米軍のアフガニスタン撤退、ロシアのウクライナ侵攻、台湾を巡る米中対立などが耳目を集めて、カーンFTCの動きについては僕も承知していなかった。しかし今回、こんな記事が目に留まった。

 

マイクロソフト取引の暫定差し止め求めたFTC請求、判事が退ける - Bloomberg

 

    

 

 Microsoftがゲーム大手アクティビジョン・ブリザードを買収しようとして、FTCと係争になった。地裁はFTCの仮差し止め請求を棄却していたが、FTCは控訴することとし、暫定差し止めで時間を稼ごうとしたが、それも棄却されたという内容。そういえば今年の初め、旧FacebookのMetaが仮想現実アプリ開発会社ウィジン・アンリミティッドの買収を止めようとして、FTCが敗訴したこともあった。

 

 カーン委員長就任以来、4件の訴訟はいずれも敗訴。今回もMicrosoftの件が、5つ目の事例になるかもしれない。カーン委員長は必死に巨大ITを叩こうとしているのだが、これまでの2年間では、全く成果を上げていない。訴訟のため、税金の無駄遣いを繰り返しているだけだ。敗因はFTC側の準備不足とも言われている。十分な足場固めをしないで、早期の結果を求めたゆえだと思われる。

 

 日本でも某大臣が「前倒せ」ばかり言うので、担当部署が水増しした納期を見せて保身に走っていると、デジタル庁の内幕を暴露した記事もあった。成果を急ぎ過ぎてはいけないということだろう。

 

<続く>

 

*1:米国連邦取引委員会、日本の公正取引委員会に相当