FTCはマイクロソフトのアクティビジョン・ブリザード買収(*1)阻止に向けた審判手続きを停止したので、両社は8月末に予定していた買収期限を3ヵ月伸ばしはしたものの、買収完了に向けて前進できたことになる。
ただバイデン政権は、今回の件はさておき、巨大IT叩きに反トラスト法を使うことは諦めていないようだ。
米独禁当局、反対するM&A示した指針公表 テック注視を再確認 | ロイター (reuters.com)
要するに、M&Aの是非を審査する指針を更新し、より厳格に「市場支配の有無」を見るということ。FTCだけではなく司法省も、この発表に加わっている。新たな指針は13項目あるというが、ポイントは以下の3点。
1)異業種を買収する「垂直統合」
競争を阻害する市場構造を産み出してはならない。
2)労働者の保護
労働者の競争力を実質的に低下させる可能性があるか検討。
3)複数案件を相互判断
個別の案件だけでなく、企業の一連の買収全体を調査することを可能に。
最後の項目については、そうあるべきと思う。しかし他の2つには、日本の公正取引委員会にも通じる古めかしさを感じる。まず「垂直統合」という言葉だが、製造業中心のリアル経済ならば、素材・工作機械・部品などを垂直に統合することで独占が成り立つ。しかしインターネット経済は、巨大ITもその一部を占める「水平分業」経済だ。
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そして、一般の人たちが思うよりずっとサイバー空間は大きく、巨大ITといえどもその一部で覇を唱えているに過ぎない。今回の巨大買収にしても、その範囲は限定的だとインターネット経済の専門家は見る(*2)だろう。
またこの業界での人の移動は、素早く大量だ。ここで働く(知的)労働者は、新しい市場の誕生や既存市場の盛衰を常に見ていて、機会と見れば移ろっていく。旧来型の産業のように、狭い範囲にしか労働環境がない人が過半を占めているのではない。
この新しい指針は、反トラスト法のデジタル時代への対応という説もあるが、十分脱却できたものではないと考える。
*1:総額690億ドルという巨額なもの
*2:ただ巨大というだけでなく、日々新しいアプリ等が産まれ拡大を続けている