政治スローガンは悩ましいものだ。「中小企業は国の宝」「だれ一人取り残さない」と掲げて、公に反対できる人は少ない。しかしいずれも、現実的には難しいテーマだ。考え方としては、
・働きたい人は、だれ一人取り残されずに働けるようにする
・雇用のほとんどは中小企業(*1)が担っている
・だから中小企業支援をして、雇用を安定させる
ということ。先月、最低賃金を4%ほど上げ、全国平均をついに1,000円台まで引き上げる決定が、中央最低賃金審議会小委員会(*2)で決着した。岸田政権が賃上げに注力し、大企業の賃上げ報道が相次ぐ中、大幅UPを求める労働側と、コスト高などで苦しい企業経営側が真っ向対立し、異例の2日間に及ぶ議論の末だった。
数年前の韓国文政権の最低賃金UPの例を見るまでもなく、企業には大きな負担となって倒産・廃業に追い込まれるケースも増える。しかし、そうして生産性の低い企業を淘汰し、産業全体として成長させるという考え方はある。「政府として援けたいのは人か?企業か?」の問いに、「両方」と応えるのではなく「まず人」と岸田政権は答えてくれたのかもしれない。
菅内閣で経済財政諮問会議委員を務めたデービッド・アトキンソン氏は、
・中小企業は小さいがゆえに問題を引き起こし、低生産性を招いている。
・合併などで大きくなれない企業は、消えてもらうしかない。
・特に実質税率ゼロの小規模事業者は、減らすべし。
と発言して物議を醸した。しかし、私は真実を語っていると思う。政府はまだ、企業を積極的に淘汰するまでの兆候を見せてはいない。「COVID-19」禍で一時的に実施した「ゼロ・ゼロ融資」の終了くらいで、総理も、
「中小企業の資金繰り支援、債務の借り換え時の保証制度、観光業等への低利融資」
を明言している。しかし、本質は「援けるべきは人で、企業は人が生きるための環境のひとつ」である。人を苦しめるブラック企業や、低賃金で縛り付けるゾンビ企業などは淘汰されるべきで、これこそが「新しい資本主義」の基本。少しずつ産業界が変われるような労働政策を、政府に望みたい。
<続く>
*1:いわゆる大企業は0.3%しかない
*2:厚労相の諮問機関、労使の代表が意見を戦わせる