梶浦敏範【公式】ブログ

デジタル社会の健全な発展を目指す研究者です。AI、DX、データ活用、セキュリティなどの国際事情、今後の見通しや懸念をお伝えします。あくまで個人の見解であり、所属する団体等の意見ではないことをお断りしておきます。

日ASEANのデータ越境基盤

 「DATA Driven Economy」である現在では、企業が活用できるデータの質と量が、その企業の成長に深くかかわってくる。質の中には、そのデータがタイムリーに使えるかも含まれるし、量の中には役に立つデータという意味も含まれる。私は、企業のデータ活用には、4つの壁があると主張してきた。

 

1)アクセスできること

2)フォーマットやID体系が標準化されていて、すぐに使えること

3)データ流通や蓄積にはコストがかかるが、ビジネスモデルが成り立つこと

4)法律などの規則には抵触していなくても、炎上しないこと

 

 である。1)に関して日米産業界は両政府に働きかけ、TPPなどに制限付きではあるが規定を盛り込んでもらった。続いてDEPA(*1)では、2)の段階が議論されていると聞く。今週日経紙が伝えたところでは、日経フォーラム<アジアの未来>で岸田総理が公表した「日ASEANのデータ越境流通基盤整備」の具体策として、ジャカルタに日本が出資して「デジタル・イノベーションセンター」を設置し、

 

    

 

サプライチェーン全体で情報共有する実証実験

・暗号化したままデータ処理をする技術開発

 

 などを行うという。前者については、上記2)の標準化が推進され効果が検証されることを期待したい。後者については、各国の個人情報保護法制の相違に対応したり、企業の機密情報もナマでは利用せず、AIの入力等に活用することを意識している。

 

日ASEAN、データ越境流通へ基盤 拠点創設 - 日本経済新聞 (nikkei.com)

 

 ただ記事の中に「中国への対抗」との文言があるのが気になる。確かに中国はデータの越境流通、特に持ち出しに厳しい制約を掛けている。しかしRCEPには加盟し、TPPやDEPAには加盟申請もしている。中国包囲網的なデータ流通基盤を作るというより、中国にも入りやすい(*2)枠組みを模索する方が建設的だ。確かにかの国は困った相手だが、世界経済としては排除などできないのだから。

 

*1:デジタル経済パートナーシップ協定。チリ・ニュージーランドシンガポールが加盟して2021年発効。カナダ・中国等が加盟申請中。

*2:例えば中国政府が指定するデータの利用は暗号化状態でのみ