梶浦敏範【公式】ブログ

デジタル社会の健全な発展を目指す研究者です。AI、DX、データ活用、セキュリティなどの国際事情、今後の見通しや懸念をお伝えします。あくまで個人の見解であり、所属する団体等の意見ではないことをお断りしておきます。

経営者こそリスキリング

 今週のNHK日曜討論」、テーマは人手不足と賃金UPだった。普通の経済モデルでは人手不足なら賃金が上昇するのだが、今の日本はそうなっていない。その原因は、

 

非正規労働者が増えすぎた

労働組合が正社員しか守らない

ブラック企業が少なくない

多重下請け構造で、価格転嫁できない

 

 と、中小企業団体・労働経済の専門家・弱者救済のNPOらが言う。これに対し、政府の経済再生担当新藤大臣が政府の概要施策を説明、特にリスキリングの重要性と促進施策を述べた。

 

新藤経済再生相 国補助のリスキリング 対象拡大の考え示す | NHK | 物価高騰

 

 加えて実業家でもある冨山和彦氏が、

 

・個人や企業が生産性を上げる必要がある

・企業も組織も「中抜き構造」なので、ここをデジタル技術などで排除する

・中間管理職、ホワイトカラーは減らすことができる

・より生産性の高い業態、業務に労働移動を起こすべき

・企業自身も付加価値が低かったり、ブラックだったりするなら廃業すべき

 

 と述べた。

 

        

 

 これには、より低収入への労働移動ばかりだとか、小規模企業はデジタル活用の事業改革などできないとか、小さな企業が多くの雇用を持っているなどの反論があった。ただ冨山氏がいくつかの事業で実践した経験から、

 

・小規模企業が苦しんでいる原因は、優れた経営者が少ないこと

M&Aで数少ない優れた経営者のもとに事業が集まれば、課題の多くは解決する

 

 と彼らを諭したのは、正鵠を射ている。後継者がいないと事業承継に悩む経営者は、さっさと優れた同業者に事業を売却すべきだともいう。デービッド・アトキンソン氏と主張は同じだが、同氏よりも分かりやすい言葉だ。

 

 先月、失われた30年の主犯は株主だったと述べた(*1)が、非上場の小規模企業にはこれが当てはまらない。経営者に影響を与えれられるのは、上場企業は株主・市場というステークホルダーがいるが、非上場では取引先(顧客)くらいしかいないのだから。

 

 結局は、従業員個人のリスキリングや雇用流動に留まらず、企業単位の流動や経営者のリスキリングが必要ということだろう。経営者のリスキリングのメニューには、是非サイバーセキュリティのリテラシーも含めて欲しいものだ。

 

*1:失われた30年の主犯 - 梶浦敏範【公式】ブログ (hatenablog.jp)