「DX with Security」の議論を方々でしているのは、
・DXで儲ける道筋が見えないと、セキュリティの原資が出てこない
・DXをすれば、自動的にサイバーリスクが増える
・いくらサイバー攻撃が怖いからと言って、DXを控えるのは本末転倒
だからである。今回はある地方銀行のDXを、社外取締役として15年ほども指導してきた人からそのプロセスを聴くことができた。
最大の課題は、銀行員が金融庁等が規定している事項を遵守することを(極端に言うとそれのみを)自分のミッションだと刷り込まれていること。日々上記を遵守していれば、民間企業として「儲ける」必要はないと思っていることだったという。
銀行業の将来に不安を抱き、改革に積極的な頭取にも助けられて彼女は、幹部行員から意識改革を始めた。規定の遵守は手段であって、目的ではない。目的は地域社会の発展に貢献し、企業や個人に安心をもたらすこと。そのために銀行は適正な利潤を得なくてはいけない。
そういう基本的なことを浸透させるのに、かなりの時間を使ったという。しかし、これを分かってもらえれば、あとはDX等を進めるだけ。私は、
・個人のお客さまからは預金を預かるのではなく、人生を預かる
・企業のお客さまには融資をするのではなく、経営を融通する
ことかと聞いた。答えは「それが究極、そこにいたるステップを踏んでいる」だった。
であれば、銀行にはDXに資する多くの情報がある。種々の縛りはあるが、工夫できることはいくらでもある。DXに挑む行員を評価し処遇する仕組みも導入する一方、制服を廃止し就業時間を自由化するなどの「働き方改革」もしたという。
「with Security」はどうかと聞くと「そもそもSecurityと信頼は銀行業の根幹、おろそかにするはずもない」との答え。堅い印象のある銀行業だが、こういう取り組みは賞賛されてしかるべし。「銀行のトランスフォーメーションかくあるべし」を聴けて、大変満足した会合だった。