今年5月、日本郵政の増田社長が「郵便局の統廃合」を口にしたところ、猛烈な反発に逢った。2040年というかなり先に向けて「検討する」としただけなのに、
・全国郵便局長会会長と会談
・従業員に説明のメールを送り
するなど、火消しに追われた。しかし、郵便事業そのものが赤字で、過疎化や人口減少の環境で、郵便ネットワークの統廃合を考えない方がおかしい。ただ、普通の経営感覚では理解できない特殊要因がこの企業(!)にあることも確かだ。
綺麗に言えば「ユニバーサルサービスとしての郵便ネットワークの維持」である。明治新政府は近代国家のインフラとして、全国津々浦々の郵便(当時は逓信)ネットワークの整備を急いだ。そのため、地方の有力者に自弁の土地建物による郵便局を整備してもらうことにした。旧特定郵便局長会の世襲公務員たちが誕生した。
彼らはすでに土地の名士であったし、公務員となったことでより地域での発言権を増した。地方~国会議員の選挙にあたり、集票マシンとしての機能も果たすことになる。
加えて、一般の郵便局職員にも、ある種の特権があった。戦後特に強くなった労働組合<全逓>の力である。労使紛争が激しかったころ、<全逓>の争議は最も激烈なものだったという。ストライキも常態化して、労働者側の最終兵器は「年賀を飛ばす」ことだった。国民文化である年賀状の時期にストライキを打ち、各家庭に年賀状が届かないようにすれば、社会に最大の文化的衝撃を与えることになる。
労働争議が沈静化し、労働組合が過激な闘争をしなくなってからも、郵政省(当時)はじめ関係者は<全逓>の動向には神経をとがらせていた。処遇を含め、労働環境の改善に務め、自動化を進めたりシステム全体の改善(今でいうDX)にも積極的だった。そのため郵便局ネットワークは、ITベンダーにとって大きな市場になっていく。
<続く>