梶浦敏範【公式】ブログ

デジタル社会の健全な発展を目指す研究者です。AI、DX、データ活用、セキュリティなどの国際事情、今後の見通しや懸念をお伝えします。あくまで個人の見解であり、所属する団体等の意見ではないことをお断りしておきます。

AIタレントのCM初登場

 生成AIの登場は、各方面に大きなインパクトを与えた。

 

・いよいよAIが人間を超える

・人間の職場がAIに奪われる

・AIを使えるか否かで、人の価値が二極化する

 

 といった言説が、紙メディアにもデジタルメディアにも散見されるようになった。かつて、米国の有名な証券会社がAI利用で、トレーダーを600人⇒2人にしたという話はあった。それ以降も、いろいろな業種・業務でAIが人の労働を代替して行っているのは確かだ。

 

 これに対して、ジャーナリスト・研究者・政治家などが警告を発し、AI規制をすべしと言っている。今夏から米国俳優組合・脚本家組合がAI利用を制限するよう求めてストライキに入り、脚本家組合は折り合えたようだが俳優組合のストは続いている。では、実際にAIが俳優の仕事を奪った例があるかというと、現時点では補助的な利用に留まっていて、丸ごとAIタレントを起用してはいないと聞く。

 

    

 

 ところが日本では、AIタレントが有名なCMに堂々と起用された。

 

日本初 AIモデルを起用した「お〜いお茶」TV-CMが公開 | PR EDGE

 

 にもかかわらず、タレント達からも、プロダクションからも、業界(利害)関係者からも、メディアからも、非難の声は上がっていない。ジャニーズ問題で忙しいのかもしれないが、かの犯罪は犯罪としてAIタレントの是非の方が業界に与えるインパクトは大きいように思うのだが・・・。

 

 逆に米国の騒動は、代理人(エージェント)が大きな力を持っているからかもしれない。俳優本人よりも、代理人のビジネスが縮小することに反対だと考えれば理屈は通る。かつてCGでも、似たような話はあった。「Batman」という映画で、主人公が蝙蝠のように舞い降りて来て着地し、立ち上がって歩み去るシーンにクレームがついたのだ。

 

・高所から舞い降り、着地するのは生身の俳優では無理なのでCGは仕方ない

・立ち上がって歩み去るシーンについては、CGを使ってはいけない

 

 という主張だった。これも、少しでも俳優(&代理人)の取り分を削りたくない人たちの主張だったと思う。日本は、このような圧力(主張)がそれほど大きくない。以前、日本は「AI規制が緩い国」との記事(*1)を書いているが、今回もそれを裏付ける案件だった。

 

*1:産業界の期待に一番近い国 - 梶浦敏範【公式】ブログ (hatenablog.jp)