もう20年以上前のことになるが、ある業界団体の会合に外務省審議官がやってきて時事国際情勢について講演した後の懇談で「産業界のみなさんには知られていないが、実は外務省は(経産省などと同様)経済官庁なのです」と言った。正直驚いて、いろいろ質問したのだが、その人物は後に駐中国大使となって日中経済協力(*1)に尽力した。
その言葉を思い出したのが、先日経団連で行われた上川外務大臣の講演。
上川外相“「経済的威圧」対抗には官民連携”新体制構築の考え | NHK | 外務省
ポイントは、
・安全保障と経済は切り離せない
・地政学的な修正が起きている世界経済は、日本企業に機会をもたらす
・外交を通じて日本の国力、特に経済力を増やすことに寄与
・自由で公正なビジネス環境の構築を主導
・特にアフリカ諸国には「法の支配」促進を支援
・経済的威圧に対して官民連携で対抗
・在外公館に企業ニーズに応える「経済広域担当官」設置を検討
・外務省と関係省庁、機関、在外公館、拠点などの縦割りを打破
というものだった。WTOの機能不全や、ルール未整備のグローバルサウス諸国、中国などの強権的経済外交に対して、日本の外務省は民間とともに立ち向かうという意志を示したものだ。外務省の武器であるODAは、中国の巨額支援(でも貸付)に比べれば少額なのに、日本国内では「海外バラマキやめろ!」の声も聞こえる。
中国・インドが世界経済に大きな影響力を持っている源泉は、その14億人の人口規模だ。中国ではすでに減少期に入っているし、インドもいずれそうなる。すると次に注目が集まる「市場」は、やがて40億人になると言われるアフリカだ。ただ、ここには自由で公正な「国境を越えるビジネス環境」が未整備で、企業は進出や投資に不安がある。これを個々の国ではなく「経済広域担当官」がある程度まとめてケアする仕組みは、経済界として望ましいものだ。
願わくば、今回の講演ではやや薄かった「デジタル貿易」についても、外務省で尽力してもらえることを期待したい。
*1:当時、かの国は鄧小平流の改革開放路線だった。