梶浦敏範【公式】ブログ

デジタル社会の健全な発展を目指す研究者です。AI、DX、データ活用、セキュリティなどの国際事情、今後の見通しや懸念をお伝えします。あくまで個人の見解であり、所属する団体等の意見ではないことをお断りしておきます。

時代に取り残されない製造業

 昨日「DATA Driven Economy」時代に乗り遅れた、製造業界の話を紹介した。ではこの時代に合わせた製造業とは何かという事例で、典型的なものが記事になっていた。

 

日立、AI活用で鉄道インフラ保守を効率化 エヌビディアと協業 | ロイター (reuters.com)

 

 「Global & Digital」時代のビジネスとは、世界中から一番いいもの(労働力や情報も含む)を仕入れ、世界中で売る。一番高く売れるところに売るのが目標。総合商社は昔からそのような事業をしていて、世界に張り巡らせた情報網がそのビジネスモデルを支えていた。一方製造業は彼らに叶う情報網を持たないので、このままでは安く買いたたかれるだけになる。しかし、製造業には彼らにはない情報源があった。それが、自らが製造した機器が発する(IoT)データである。

 

    

 

 この記事は、製造業者が列車のデータを英国やイタリアで採取し、路線保守に活かすことを事業化したと伝えている。いわば単純な製造業から、サービス事業への拡張である。私自身が20年以上前から取り組んできた、データ活用によるビジネスモデル転換例と言っていい。

 

 ただこのモデルの実現には、技術開発など企業内だけではどうにもならない課題があった。それは、国境を越えるデータの自由。データの囲い込みをする国が少なくなく、世界中で同じモデルを展開し有効データの総量を増やすことや、総コストの削減が難しかった。そこでTPPの条項に「データ流通の自由」を盛り込んだことは、以前紹介した(*1)。特に個人情報保護名目で流通を阻止しようとした欧州委員会とは、

 

・列車の物理的なデータは個人情報じゃないはず

・どこまでが個人情報なのか、はっきりさせよう

 

 と論戦(*2)を交わした。まだ結論はでていないが、少なくとも振動等による路線の状況検知データは個人情報ではあるまい。このような事例を積み上げ、

 

・1車両当たりの乗客等の加重

・1車両当たりの登場人数

・搭乗者の(マスとしての)属性

 

 などが、GDPRなどの規制対象か否かの議論をしてほしいと思う。

 

*1:デジタル貿易自由化への逆風 - 梶浦敏範【公式】ブログ (hatenablog.jp)

*2:"Connected Train" のリスク - Cyber NINJA、只今参上 (hatenablog.com)