梶浦敏範【公式】ブログ

デジタル社会の健全な発展を目指す研究者です。AI、DX、データ活用、セキュリティなどの国際事情、今後の見通しや懸念をお伝えします。あくまで個人の見解であり、所属する団体等の意見ではないことをお断りしておきます。

デジタル貿易自由化への逆風

 私のデジタル技術者としての会社人生、後半は「Global & Digital」を推進する政策活動が中心となった。国ごとに違う規則と、国境が存在しないサイバー空間の矛盾を、少しでも緩和できるよう、各国政府に働きかけたものだ。TPPの電子商取引章に、

 

・国境を渡るデータの自由

・サーバローカライゼンーションの禁止

ソースコード強制開示の禁止

 

 などを盛り込んだのは、最大の成果だったと自負している。しかしTPPには、各国政府が嫌がる関税自由化が入っていて、これに反発した米国トランプ政権は離脱してしまった。今でも関税に関することは米国内でタブーで、バイデン政権はこれに代わるものとしてIPEF(インド太平洋経済枠組み*1)を2021年に提唱した。その主旨(柱)は4本あり、

 

1)デジタルを含む公平で強靭性のある貿易

2)サプライチェーンの強靭化

3)インフラクリーンエネルギー脱炭素

4)税制汚職対策

 

    

 

 となっている。昨年5月、ようやく2)が妥結、11月に署名にこぎつけた。同月3)と4)が妥結(*2)し、年内にも署名できる見通し(*3)だ。しかし、私たちが一番望んでいる1)の柱が議論にも入れていない。

 

 デジタル経済で世界をリードしているはずの米国内が、巨大IT企業への反発で本件を拒否しているという。米国内世論は貿易に対してセンシティブで、さらにデジタルに対してもセンシティブ。外国からの製品やサービスが、米国内の雇用や富を奪う。ましてやそれがサイバー空間での行為だと、目に見えないものゆえ余計に怖いということらしい。その意識を感じ取ったか、トランプ候補はIPEFをTPP2と呼んで排斥し、自分が大統領に返り咲いたら破棄すると言っている。

 

 デジタル貿易自由化への道は、まだまだ険しそうだ。

 

*1:インド太平洋経済枠組み - Wikipedia

*2:APEC会合に合わせた外交交渉 - 梶浦敏範【公式】ブログ (hatenablog.jp)

*3:IPEF、早くも停滞懸念 - 日本経済新聞 (nikkei.com)