中国企業は共産党政権からの要請があれば、自社が保有するデジタルデータを提供しなくてはならない。習政権はサイバー空間にも中国の国家主権があると主張し、国家統制を強化する政策を2010年代に次々と打ち出した。そのひとつが、この法律「国家情報法」である。
だから中国企業が運営する<TikTok>のようなSNS、<TEMU>のようなECサイトを利用すると、中国以外の国に住む人でも習政権に情報を見られてしまう可能性がある。これらのサービスについて、米国等が禁止するしないの議論をしている理由の多くは、ここにある。
さらに企業・団体がクラウドサービスを利用する際に、中国系企業のものを使えば、同じリスクがある。だから、中国企業以外は、中国版のクラウドサービスは使いにくい。その結果、例えば中国のIT大手<百度>の事業は、全体として成長しているのにクラウドだけはマイナス成長というおかしなこと(*1)になる。
今回は、同じく中国IT大手<阿里巴巴>がクラウド料金を値下げするとの報道(*2)があった。国内では競合他社に押され、海外市場が伸びずにクラウド事業が苦境にあるという。海外事業が伸びないのは、冒頭申し上げた国家情報法のリスクがあるからだ。
日米産業界は、TPP14章に「サーバ設置義務の禁止」を盛り込んだ。これは世界中で適切な場所にデータセンターを置く経済合理性だけでなく、強権国家に現地サーバが差し押さえられて企業秘密や個人情報を抜かれるのを嫌った(*3)からだ。今、中国にサーバを置く、もしくは中国企業のサーバを使えば、この時恐れていたことが起きてしまう。
「サーバ設置義務の禁止」を提唱した時、ASEANの会合で私が説明しようとすると、中国代表団が席を立った。中国企業も「サーバ設置義務の禁止」の恩恵を受けるのだと言ったが、聞く耳を持ってくれなかった。今こそ、中国IT企業は国家情報法に対して異を唱えるべきだと思う。そうしてくれれば、デジタル産業としてフェアに意見交換できるようになるのだから。
*1:クラウド事業マイナス成長・・・の意味 - 梶浦敏範【公式】ブログ (hatenablog.jp)