梶浦敏範【公式】ブログ

デジタル社会の健全な発展を目指す研究者です。AI、DX、データ活用、セキュリティなどの国際事情、今後の見通しや懸念をお伝えします。あくまで個人の見解であり、所属する団体等の意見ではないことをお断りしておきます。

スパイ防止法はなくても

 米国のトランプ前大統領が、37の罪状で起訴され、その全てを否認したと伝えられる。TOP Secret(最高機密)に区分される文書も持ち出していて、これはスパイ防止法違反にあたるだろう。一方日本では、

 

スパイ防止法がないのは問題

・各国の諜報機関がピクニックエリアだと安心している

 

 として、同法の成立を求める動きは以前からあった。戦後日本で一番成立に近づいたのは、中曽根内閣だった1985年。「国家秘密に係るスパイ行為等の防止に関する法律案」が自民党議員立法で提出されているが成立せず、結局廃案になった。その後第二次安倍内閣で「特定秘密保護法」が成立し、公務員などを対象に刑罰は導入されているが、スパイ防止法の域にまでは達していない。

 

    

 

 しかし今回、産総研に勤務していた中国籍の研究者を、公安警察が逮捕したとの報道があった。容疑は不正競争防止法違反。

 

産総研の中国籍研究員を逮捕 中国企業への技術漏洩容疑 - 産経ニュース (sankei.com)

 

 フッ素化合物関連の技術(*1)を、中国企業に漏洩したというのがその容疑内容。産総研で研究に従事しながら、同時に北京理工大学で教鞭をとっていたというから、かなりあからさまな事案だ。今回日本の警察は「スパイ防止法がなくても、目に余れば捕えますよ」と内外に示したのだろう。

 

 治安機関としては種々の法律(*2)を当てはめながら、セキュリティ・クリアランス制度を含む経済安全保障法制の整備が済むのを待つ方針のように見える。しかし情報漏洩の罪をより多くの民間人にまで広げる上記制度については、本当に社会の為になるのか、私はまだ納得できていない。民間にとってのメリットを含めた、細部にわたる議論が、透明性を持って成されることが必要だと痛感している。

 

*1:フッ素化合物技術は、現在HOTになっている半導体業界でも重要なもの。製造のためのエッチング、洗浄に使われるほか、半導体製造装置の樹脂にも適用される。

*2:不正競争防止法の他、個人情報保護法不正アクセス禁止法など