生成AIのブームにあたり、各国の開発競争も激しくなっている。G7広島サミットではAIを巡るルール作りをすることを定めた「広島AIプロセス」が公表されている。AIの健全な発展に向けて、悪用を防止しながら技術開発/利用をすすめようということだ。一部の識者からは「核兵器登場以来の危機を招きかねない」との危惧も見られて、ある意味これは正しい。核技術も、正しく使えばエネルギーを潤沢にしCO2削減にも役立つが、悪用されれば人類を滅ぼしかねない。
今週日経紙が、政府のAI戦略会議の座長松尾豊東大教授のインタビューを掲載している。AI戦略会議が示している主な論点は、
・国際的な共通理解とルールづくりが重要、懸念やリスクにも対応すべき
・偽情報の拡散、著作権侵害、犯罪の巧妙化、失業者の増加など7つのリスク
・最先端半導体など計算・処理設備、AIに学習させるデータの整備が重要
・電力の有効活用策や省エネ半導体の開発を促進
となっている。これに異論はないのだが、松尾座長は「一般的にAI開発をあまり規制するべきではない」としながら、GAFAMなどが大規模な開発投資/支援をしていることを挙げ「AI保有国が米国はじめ数カ国になってはいけない」と、日本勢も開発に本腰を入れるべきだという。
先週NTTがAIのビジネス展開を公表し、米国勢よりコスト安で利用できるとするなどしているが、松尾座長は日本企業への国のサポートを増すよう求めている。産総研の設備を更新/拡充するなどが念頭にあるようだ。同時に松尾座長は「新しい職種も生まれる。例えば生成AIに的確な指示を与えるプロンプトエンジニアリング」とも言っている。
設備拡充はインフラ投資だが、プロンプトエニジニアリングは利用技術だ。すでにWindowsのようなインフラで競合しようとする日本企業などありえないように、インフラは重要だが利用技術/産業こそが、より大きなビジネスになるし多くの雇用を産む。
デジタル産業は、政府の支援で伸びてきた面もある。例えば「IBM互換機」である。しかしハードウェアより、ソフトウェア、さらにSIの方がビジネスとしては大きくなった。政府のインフラ投資を無駄とは言わないが、より大きなビジネスへの投資促進の方が望ましい。