今月、欧州議会が「AI法」の承認に関する投票を行った結果、圧倒的多数で可決された。世界に先駆けたAI規制を本格的に議論するスタートラインに、EUは立ったことになる。日本のように議会で議決すれば法律が決まるというわけではないのが、この国の立法の難しさである。議会はこの後、欧州委員会らと法案についての議論を重ねなくてはならない。
だから実際の法律内容はもちろん、その施行の日も現時点では分かっていない。ただ欧州議会がこの法案で狙っていることは、おおむね予想できる。まずは「ハイリスクAI」の排除だ。人権に関わるような使い方をするAIシステムは、開発そのものが禁止。そこまでのリスクはないが、要注意なものは厳重な監視下での開発・運用が求められるだろう。ただし、安全保障や治安に関するものについては、規制の例外となるはずだ。規制対象とするかの判断はシステム自体ではなく、その使い方が社会にどのようなリスクをもたらすかの「リスクベース・アプローチ」で行われる。
<MIT Tech Review>によると、リスクが高く禁止すべきとされる行為は、
・人間の感情を認識すること
・公共空間でのリアルタイムの生体認証
・個人の社会信用スコアリング
・生成AIが著作物を参照すること
で、この他SNS上の「お勧め」に対しては、今まで以上の透明性を要求するだろうという。2項目目などは、米国のTVドラマでは捜査機関が普通にやっていること。もちろん、テロリストなどの危険人物や重要手配犯が対象だが、治安当局からは異論が出そうだ。3項目目は、中国の「芝麻信用」がすでに大々的に実施している。そのメリットとして、効率的で便利な社会が造り上げられるとする主張もあり得る。
少なくとも法律が成立するまで2年かかると言われているが、2年前の議論から4項目目の「生成AI」が付け加わったように、2年間の技術進歩は大きくなろう。それゆえ急ぐのだと欧州議会には言われそうだが、社会にとってもメリット・デメリットを落ち着いて議論して貰えればと思う。その際、ちゃんと産業界の意見を聴いて欲しいものである。