私が工学部の情報工学科に入学したのは、1974年のこと。クラスは44名が在籍していて、あれから50年にもなろうというのに何人かで集まることができるのは望外である。何人かは鬼籍に入ったが、比較的早い時期に2/3ほどのメンバーのメルアドが共有できていたので、連絡は容易だった。
もちろん理系のクラスで、数学の得意な学生が多かったが、私ともう一人が作家志望だった。彼とは今でも付き合いがあり、同じくデジタル政策やサイバーセキュリティで議論する立場だ。なぜこの話を思い出したかというと、情報工学がついに文学の領域に入って来たか、文学に情報工学が寄与するようになったから。もちろん、直接的な原因は「生成AI」の登場である。
AIの開発や改善、あるいはシステムとしての運用には、高度な科学が必要だ。しかし利用者ならば、AIの中味まで知る必要はなく利用技術があればいい。圧倒的に多くの人は、AIの利用技術者にあたるのだ。
利用技術として注目されているのが「プロンプトエンジニアリング」、平たく言えば生成AIにどのように質問を投げて求める回答を得るかという技術だ。使用するのはプログラミング言語ではなく、自然言語。
サイバーセキュリティの専門家が、通常はブロックされる生成AIによる高度なマルウェア作成を、その直前まで実演してくれた。
・まずAと条件を設定しておく
・次にBという質問をして、自分に都合のいいAIモデルを(仮想的に)作る
・さらにCと依頼すれば、希望のものができる・・・はず
生成AIには、まだチェックできていない抜け穴、ゲームの世界でいう「裏技」がある。彼が示してくれたのは、その一例だ。これを見ていて思ったのは、
・検察官が容疑者に問いかける尋問技術
・弁護士が証人を問いただす法廷戦術
に似ているなということ。ミステリーの世界の例しか引けないのは、私がミステリー作家志望だったから。それでも半世紀をかけて、学生時代の専攻と趣味が結びついたと思えたケースだった。