梶浦敏範【公式】ブログ

デジタル社会の健全な発展を目指す研究者です。AI、DX、データ活用、セキュリティなどの国際事情、今後の見通しや懸念をお伝えします。あくまで個人の見解であり、所属する団体等の意見ではないことをお断りしておきます。

ITベンダーの責務(後編)

 IBMがコンピュータの代名詞だった頃に出来た<IBM互換機市場>、それは決して長くは続かなかった。Appleが登場し、IBMがルーツとはいえPCがポピュラーになり、クライアントサーバーシステムがメインフレームを駆逐していった。今は多くのコンピュータ資源が<クラウドサービス>の形で提供されている。

 

 当然互換機メーカーは事業転換を迫られるのだが、ICLの場合は富士通のと合併を選んだ。確かに相性は良く、ICLは富士通にとって英国公共市場を覗う絶好の相手だった。1998年に完全子会社として、のちにICLブランドは富士通ブランドに統一されている。

 

 いろいろな記事を読むと、富士通のICLに対するガバナンスは十分ではなかったようだ。当然英国政府関係に強いパイプを持った役員がいて、旧ICLブランドにシンパシーをもっていたのだろう、何か起きても「日本には言うな」と部下たちを指導したという。

 

    

 

 その製品にしても不良率が高く、かつ日本からの技術支援も十分に受け入れられなかったと推定される。M&Aをするにあたってのデューデリジェンスの不足はあったろうが、その課題度合いは最悪を想定した富士通側のそれを越えるものだったのかもしれない。

 

 今回の事件は、一義的には冤罪事件を起こした国営会社ポストオフィスと、誤った判断をした司法全体に罪がある。ただ、勘定系システムという重要な社会インフラを担当しながら品質不良を何十年にもわたって見抜けず、また措置できなかった罪は旧ICLにあり、それを適切にガバナンスできなかった富士通経営陣にある。

 

 同社は今週下院の公聴会で、勘定系システムの品質問題について証言を行う(*1)とのことだが、包み隠すことなく実態を公表して欲しい。レガシーシステムの保守や更新は、一般の人が思っている以上に難しい。まして文化の違う外国で過去に開発され(*2)たシステムについては、分からないことだらけだ。

 

 しかし、デジタル産業たるもの「ここまでは分かっている。この公算が高い」という説明をするのは義務である。ましてやブラックボックスが基本のAIシステムなど扱うようになったら、技術的に不透明なことも一般の人に理解してもらえるよう説明する責任があるのだから。

 

*1:英郵便局スキャンダル、被害者救済に新展開 富士通は下院で証言へ - BBCニュース

*2:開発者もすでにいなければ、その言語を操れる人間も少ない。ドキュメントも不十分かもしれない。