梶浦敏範【公式】ブログ

デジタル社会の健全な発展を目指す研究者です。AI、DX、データ活用、セキュリティなどの国際事情、今後の見通しや懸念をお伝えします。あくまで個人の見解であり、所属する団体等の意見ではないことをお断りしておきます。

ITベンダーの責務(前編)

 英国国有企業ポストオフィスが、民間郵便局長700人以上に横領の罪などを着せたとされる、英国史上最大の冤罪事件の全貌が日本にも伝わってきた。原因は勘定系システム<ホライゾン>のバグで、金銭収支が合わなくなったことを局長・局員の不正だとしたことにある。このシステムを納入していたのが、富士通の100%子会社旧ICLだ。このため、冤罪を起こした司法当局・ポストオフィスと並んで富士通にも市民の批判が高まっているという。

 

「違法な取り立て」に心折れ、自殺者も...富士通のシステムが招いた巨大「冤罪」事件に英国民の怒りが沸騰|ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト (newsweekjapan.jp)

 

        

 

 多くの報道を総合してみると、問題は2000年ごろから始まり、有罪判決を受けて地位も名誉も財産も失った郵便局長が続出した。英国の郵便局はコンビニの奥で郵便を取り扱っているような店舗が多く、もちろん民営(民間委託)である。冤罪を着せられた局長たちの闘いは、TVドラマ化もされた。

 

 この記事にあるように、一部冤罪被害者とポストオフィスの和解が成立しているとは言うものの、すでに自殺などで亡くなってしまった人もいて、スナク政権は被害者救済法を制定する方向で動いている。

 

 勘定系システムに金銭の不具合があること自体致命的だが、それが長年放置され金銭的な実害だけでなく社会不安にまで広げてしまったのは、ITベンダーとしてあってはならないことだ。

 

 なぜ日本企業である富士通が、かくも市民に批判されるようになったかについては、長い歴史がある。それは1960年代までさかのぼる。IBMに代表される米国のITベンダーに対し、日本や英国は自国内でのベンダー育成に努めた。特にIBMメインフレームと互換性のある機器を製造販売する企業として、日本では富士通と日立、英国ではICLが政府の庇護も受けながら事業を展開していた。

 

 特に官公庁需要は、これらの企業に優先的に与えられ、富士通・日立が合弁した<ファコム・ハイタック>という営業・SE企業ができたくらいだ。当然英国の官公庁市場にはICLが優位性を持っていた。

 

<続く>