先月、英国に出張していた時、富士通の子会社(旧ICL)の幹部が議会公聴会に呼び出された。700名にもおよぶ郵便局長・従業員に。ポストオフィスが公金横領の冤罪を着せたとされる事件。今年の正月TV特番で連日放映され、大きな社会問題になっていたのだ。その原因はすでに述べたように、ICL製の会計ソフトウェアの不良(*1)である。
富士通・ICL側は自らの問題を認め、謝罪した。場合によっては損害賠償を要求されるかもしれないが、真摯に向き合うと伝えられている。しかし、先週こんな続報があった。
富士通の英政府との契約額、6400億円上回る-冤罪との関係認定後も - Bloomberg
2019年の実績で、公的機関からの富士通側の受注は、34億ポンドに上るとのデータが取り上げられている。イングランド銀行・歳入関税庁・金融行動監視機構など、日本でいう日銀・金融庁系の受注が目立つ
この記事は、
・富士通は、まだ政府機関からの受注をしている
・そのうちの一部は、冤罪への関与が司法機関で判断されたからのもの
という事実を述べているだけだが、論調としては「悪者なのにまだ受注している。政府機関も発注して(肩入れして)いる」だと思われる。
これはある意味フェアな報道ではない。長期契約を結んでいたかどうかは別にして、ずっと昔からシステムを納入し、改善し、日常の保守をしているベンダーとユーザーは、容易に分離できない。システムの詳細まではユーザーは分からないし、恐らく分かろうともしなかったはず。システムの仕様書だって、概略仕様は要求すれど、それをどう実現するかの詳細仕様は追認していただけ。これでは、不正等が見つかったとしても「ハイ、明日からお出入り禁止」とはできない。
これを業界では「ベンダー・ロックイン」といい、長期にシステムを維持するには必要な面もある。もともとICLは国策コンピュータ会社、他に任せにくい金融システムなどをロックインしていた企業だったが、サッチャー政権で「身売り」を模索した。安全保障と経済合理性のの狭間で、日本資本を受け入れている。
その判断については、歴史家の評価を待ちたいと思う。