梶浦敏範【公式】ブログ

デジタル社会の健全な発展を目指す研究者です。AI、DX、データ活用、セキュリティなどの国際事情、今後の見通しや懸念をお伝えします。あくまで個人の見解であり、所属する団体等の意見ではないことをお断りしておきます。

今でも「鉄は国家」なのか?

 19世紀ドイツの有名な政治家ビスマルクは「国家は血なり、鉄なり」と語り、鉄血宰相と呼ばれた。近代国家(Society3.0:工業化社会)を形成するには、より良質の鉄鋼生産能力増強が必要だった。

 

 日本でも官営八幡製鉄所の開業(1901年)にあたって、初代首相伊藤博文が「鉄は国家なり」と語ったという。当時巨大な製鉄所の運営に必要とされる設備投資や技術開発は、官営でしかできないことだった。しかしその八幡製鉄所も太平洋戦争後、民間の富士製鉄等との合併で新日鉄となり、いまは日本製鉄という民間企業になっている。

 

 安価な競合他社の製品が登場し、CO2削減の焦点にもなった製鉄業は、純粋ビジネス的には斜陽産業。グローバルな業界再編が進んでいて、この度(米国をかつて支えた)USスチールを、日本製鉄が買収する計画が発表されている。

 

        

 

 現在のビジネス規模としては、中国や韓国の企業が上位を占めるようになり、日本製鉄が4位、USスチールに至っては23位である。合併後の新会社は、3位に位置付けられる見通しだという。しかし「鉄は国家なり」時代の因習を引きずっている米国人が少なくなく、反対運動も起きて対米投資審査委員会(CFIUS)が買収の是非を審査をすることになった。そして極めつけはこの方・・・。

 

トランプ氏、自分が当選なら「絶対」阻止-日鉄のUSスチール買収 - Bloomberg

 

 確かに安全保障の観点からは、同盟国とはいえ日本資本が入ることは望ましくないと思う人もいるだろう。日本の経済安全保障法制にも「重要物資の安定的供給の確保」という項目があり、重要物資の中には鉄関連の原材料も含まれる。

 

 半導体については何度か申しあげているが、経済安全保障の視点から国内回帰を進めすぎると、世界経済の発展に影を落とす。本当に必要な、供給が止まると直ぐにも企業活動や市民生活に大きな影響を与えるものに限るべきだ。自由な「ヒト・モノ・カネ&データ」の流通こそが、経済発展の道であることを認識してもらいたい。