先週は、欧州で「農家の乱」が頻発した。南フランスから始まった農業従事者のトラクターによる道路封鎖や施設封鎖、酷いのになるとスーパーマーケットに家畜の排せつ物をまき散らしたり、食品輸送トラックを止めて荷物を放り出したりした。全国に広がったデモは徐々にパリに向かって進撃し、イル・ド・フランスを包囲しそうになっている。
ドイツでもトラクター群がベルリンをめざし、オランダでもトラクター使用は禁じられたものの農業従事者がハーグで気勢を上げた。現象は似ているが、動機は微妙に違う。
・フランス
欧州内も含めた自由貿易への不満、フランスの農業者は厳しい規制を受けているのに、他国は甘い。国内で使用禁止の薬物など、他国は使えるのだから不公平だ。またインフレでコストが上がる中、価格転嫁できず農業者の大半は貧困がひどい。
・ドイツ
ショルツ政権で「COVID-19」関連予算を流用した件が裁判所から違反とされ、600億ユーロが召し上げられてしまった。その穴埋めのため農業従事者(だけではないが)への支援を削ったのが彼らの怒りを買った。
・オランダ
環境保護促進のために、農地の強制売却や事業譲渡を迫られたことに加え、社会問題となっている保育費助成金返金やガス採掘に関する失政への抗議が主因。
共通しているのは、農業者が政府から見捨てられているのではとの不満だ。先進国の中でも最低の食糧自給率である日本(*1)とは違い、十分農業保護をしていたはずのこれらの国でも、こんな状況。ちなみに、各国のカロリーベース自給率は、
フランス 129%
ドイツ 84%
オランダ 61%(ただし金額ベースでは196%)
となっている。欧州では、農業を保護しながらも環境問題への取組も厳しく、そこそこの自給率もあるので、経済安全保障よりは環境問題に舵を切った印象である。翻って日本は、経済安全保障といえばエネルギー確保と情報管理、さらには半導体産業の誘致という「本当に市民の命に係わる安全保障かな?」と思わせるイシューに議論が偏っている。日本の農業従事者がトラクターで東京を包囲するようなデモをしないからといって、ちゃんとした農業保護(*2)と自給率向上をないがしろにしないで欲しいものである。
*1:カロリーベースで38%、金額ベースで58%
*2:農家ではなく企業組織も含む農業の保護であるべき。