今週「Mission Impossible」最新作のプロモーションで来日するはずだった、トム・クルーズはやってこなかった。米国俳優労組がストライキに入ったからで、広報・宣伝活動もできなくなったからだ。ストライキの規模は43年振り、脚本家も同時にストライキを打っており、これは63年振りという。
アメリカの俳優労組がストライキ、過去43年で最大規模 映画イベントなどに影響も - BBCニュース
待遇改善が要求だが、その直接的な原因は生成AIの登場。日本では知らず、米国には「ペーパーバック・ライター」という職業があった。どこでどう使われるかは分からないが、ひたすら物語を書き続けて1語いくらの単価で売る商売。エッセンシャルワーカーの一種で、もちろん著作権などない。「夜の終わり」などの名作で知られるジョン・D・マクドナルドのようにブレイクした人もいるが、ほとんどは歴史に名を遺すことなく消えた。そんな職種は、恐らく生成AIの登場で淘汰されるだろう。
俳優も同じだ。かつてCG(*1)が登場し実写と共存させた「バットマン」という映画では、蝙蝠のように舞い降りるシーンとそこから立ち上がって歩くシーンで俳優労組が声を上げた。舞い降りるのは人間にはできないからCGでOK、しかし立ち上がる以降は人間に演じさせろというものだった。
俳優労組の今回の提案でも「エキストラとして一度データを取られたら、永久に使われる」と弱い立場の俳優をかばう例が挙げられている。しかし本当に脅威にさらされているのは、中堅どころの俳優たちだろう。トップスターほどではないが、相応の報酬があり数も多い。制作会社としては、彼/彼女らのデータを使い回すことで、大きなコストカットが可能になる。
多分、これはどの業界でも起きることだ。本当のトップは生き残り、恐らく報酬も上がる。しかしミドルクラスは、生成AIに置き換えられてしまう。そんなことを予感させてくれるニュースだった。
*1:Computer Grafics