梶浦敏範【公式】ブログ

デジタル社会の健全な発展を目指す研究者です。AI、DX、データ活用、セキュリティなどの国際事情、今後の見通しや懸念をお伝えします。あくまで個人の見解であり、所属する団体等の意見ではないことをお断りしておきます。

問題はどの市場に活かすか(前編)

 先週「AIモデルのCM」が登場したことを紹介したが、IT業界にいる者にとっては、生成AIのプログラミング能力の方が気になる。生成AIが(使い方によっては)高度なプログラムを、非常に短い時間で書き上げることができるからだ。日本のIT産業、特にSIerと呼ばれる業種では、未だに「人月商売」をしているのだが、その対価基準が根本から揺らぐ事態に直面(*1)している。

 

 今回、日本を代表するSIerである企業が、生成AIを活用して開発効率を30倍に上げたとの記事があった。

 

富士通、生成AIで開発効率30倍 1カ月の作業を1日で - 日本経済新聞 (nikkei.com)

 

        

 

 内容は、プログラミングをする生成AIに対して、効率的に要件定義をする技術開発をしたというもの。あくまで技術開発であって、発表者もCTO。どのようなビジネスに適用するかは企業側は発表していないようだ。

 

 そういう意味では、記事の見出しは少し誤解を招きそうだ。いかにも「30人月かかっていたものが1人月でできますよ」と言っているようにも聞こえる。もしそうなら、ビジネスの根幹たる「人月」が1/30になってしまう。急にそうなったら、SIerもそこに勤める人も、大変なことになるだろう。

 

 そもそもIT産業は急速な技術発展によって成長してきたが、技術発展はそれ以上の市場拡大努力を企業に求めた。半導体の集積能力向上を示す「ムーアの法則」(*2)もあるが、半導体以外のハードウェア、ソフトウェア、ネットワーク、ストレージなどの条件も加えると、私の感覚では「IT技術は5年で10倍になる」くらいだと思う。

 

 これを裏返すと「IT産業は、市場拡大の努力をしなければ、5年で1/10の市場に押し込められる」ことになる。

 

<続く>

 

*1:生成AIの人月商売への影響 - 梶浦敏範【公式】ブログ (hatenablog.jp)

*2:集積能力は2年で2倍になる