入社5年目、まだ30歳前だった私は、突然の異動命令で田舎の事業所から本社機構に転勤した。そこは、複数の事業所からひとりずつ集まった幹部スタッフ部門。田舎事業所の狭い世界では知ることができない、様々なことを経験した。中規模の事業所から来た課長は「大規模事業所は、体力にものを言わせて突き進めばいい。俺のやお前のように小さな事業所は、ウサギのように耳を伸ばしていないと命に係わる」と教えてくれた。
「耳を伸ばす」つまり情報収集・分析力が、体力に抗する唯一の手段だということだった。国際関係で言うと、経済力・軍事力が体力に相当する。もちろんNo.1は米国だ。米国はまた、情報収集・分析力でもNo.1と思われていたのだが、それはSIGINT(*1)で他国を圧倒していることが大きい。英国の識者によると、
「SIGINTで強すぎるのと、国土が戦場になった記憶がないので危機感が低い」
欠点があるという。だから9・11の奇襲を受けて、慌ててイスラム過激派叩きをする羽目にもなった。英国の諜報の中心は、今でもHUMINT(*2)で、かつて宗主国だった国以外にも膨大な人脈を維持しているという。それにはカネがかかるが、大国ではなくなった今、これに投資することが必要との考えだ。
効率性を求める傾向の強い米国では、諜報機関もコストセンターだ。ソ連崩壊時に、CIAが必要か(カネを喰うから解体すべきか)と議会で激論があったと聞く。だからCIAはこれまで日陰者、予算も削減されていたらしい。しかし、このところバイデン政権は、CIAやHUMINTに注力する傾向がみられる。
・CIA長官を閣僚起用するよう提案
・バーンズ長官が「中国での情報網構築の成果」を強調
・ロシア人諜報員を公に募集開始
これは、国際関係が緊張していることと、SIGINT一辺倒では危ないとの危機感だと思われる。日本でも「Active Cyber Defense」の議論があり、耳を伸ばすことが可能か、政府では検討を重ねているはず。さて、日本のSIGINTやHUMITはどうすべきか・・・。
*1:通信傍受など電子的手段での情報収集能力
*2:人とのつながりで得られる情報