かつては、家庭に朝刊が配られ、サラリーマンは通勤途上でスポーツ紙を読み、帰宅すれば奥さんが夕刊を広げている・・・そんな日常があった。しかし今では、全国紙の雄だった朝日新聞ですら部数を減らし続けている。市民の多くがネットメディアに拠り、新聞を読む人は13%だとする韓国ほどでなくても、紙の新聞というメディアは苦境にある。これは米国も同じ、特に広大な国土を持ち地方紙の意義が重かった分、より困った状態にあることは確かだ。
そんな米国では経営難に陥った地方紙を買って、ピンクスライム(*1)メディアに替えることが常態化しているという。独自の記者は持たず、オフィスもその地域にはない。記事は、提携全国メディアらの転載を除けば、地域の団体(*2)にフォーマットを提供し、記事の概要を埋めてもらってそれを生成AIが記事化するという編集手法。
これならコストを抑えて、地域に密着した話題を提供できる。ほとんどはネット配信で、あるとしても1日/週紙媒体が送られるくらいだという。
ここまでは合理化された地方インフラとして納得できるのだが、問題はこの種のメデイアがある意図を持った資金源に差配されているという疑惑(*3)だ。政治的な意図での偏向報道記事や「偽ニュース」が交っているとの指摘に、あるメディアのCEOは、
「そもそも全国紙など既存メディアが偏向している。我々の方がフェアだ」
と反論する。私はこの種のメディアは、既存メディアとSNSの中間的なものだから偏った意見が載ることもあると考えていたのだが、このような反論を聞いて大きな意図を感じてしまった。
ガザ地区の紛争で、各国がハマスとネタニヤフ政権双方を非難するのに、米国政府はほぼ一方的にネタニヤフ政権を擁護している。これは米国人口の2%しかいないユダヤ系の人達が、
・コンテンツ産業に深く関り
・記者などの関係者も多い
ゆえだと伝えられる。「そもそも偏向している」との言葉は、この点を指すのだろう。これらのメディアの登場に危機感を覚えた彼らが、ピンクスライムというレッテルを張ったとも考えられる。米国の政治の行方を左右しかねないメディア論、これからも注視していく必要があるだろう。
*1:食肉を嵩上げする合成肉の意
*2:自治体やスポーツ団体、学校など
*3:その記事の内容、本当? 実態不明のニュースサイト「ピンクスライム」が増殖中…保守系団体が資金提供も:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp)