梶浦敏範【公式】ブログ

デジタル社会の健全な発展を目指す研究者です。AI、DX、データ活用、セキュリティなどの国際事情、今後の見通しや懸念をお伝えします。あくまで個人の見解であり、所属する団体等の意見ではないことをお断りしておきます。

「TikTok」の目に見えるリスク

 昨日に続いて、米国の「TikTok」規制のお話。トランプ候補の擁護発言(*1)にもかかわらず、下院では、中国系企業「バイトダンス」に半年以内の売却を命じる規制法案が、352対65の圧倒的多数で可決成立した。まだ上院でどうなるかは分からないが、可決されれば、自らアカウントを開設したばかり(!)のバイデン大統領もサインすると言っている。

 

米下院、TikTok規制法案を可決 上院での行方は不透明 | ロイター (reuters.com)

 

 トランプ政権が提案し、一時期鎮静化していたこの法案議論が再燃したのは、「バイトダンス」側の強硬姿勢があったからという。具体的には、米国内の1.7億人のユーザに対し、

 

・このままでは国内で使えなくなります

・いますぐ下院議員に電話して(法案に反対するよう訴えて)ください

 

    

 

 とのメッセージを送ったから。ご丁寧に自らの住所を入力すると、地域の下院議員事務所の電話番号が出てくる仕掛け付きである。これは米国の政治関係者に衝撃を与えた。「TikTok」は世論操作が可能で、政治的圧力たり得ることが明示されたのだ。

 

 「安全保障上の脅威」と言われていたが、具体的にどういうリスクがあるのかは、あまり表に出てこなかった。

 

・映像の場所など付属データを分析してインテリジェンス化(IMINT)できる

 

 とも言われたが、映像は公開されているので分析は中国政府だけでなく、日本政府にでも可能だ。一方、どの地域にどういう指向を持った人がどのくらいいるというマスデータは運営会社が持っているので、これを「国家情報法」で徴求した中国政府が「この地域にこういう偽情報を流せば、住民の〇%がこういう行動を起こす」とのアクションを起こせる。ただ、このようなリスクは目に見えにくく、一部の政治家や官僚、軍関係者が訴えても分かりにくかった。

 

 それが期せずして、運営会社自身の行動によって「暴露」されてしまったと考えられる。さて、日本国内の「TiKToK」はどうなるのだろうか?

 

*1:運営会社の出資者から、選挙資金(≒訴訟費用)の支援を受けたとの報道もあった