梶浦敏範【公式】ブログ

デジタル社会の健全な発展を目指す研究者です。AI、DX、データ活用、セキュリティなどの国際事情、今後の見通しや懸念をお伝えします。あくまで個人の見解であり、所属する団体等の意見ではないことをお断りしておきます。

国際機関の独立性が危うい

 寡聞にして、国際刑事裁判所(International Criminal Court:ICC)という機関があって、容疑者を指名手配することができることは知らなかった。国際刑事警察機構(International Criminal Police Organization:ICPO)は各国警察の調整・連絡機関で、実効的な捜査、逮捕権限はないと聞いていたが、ICCはそれができる(*1)のだ。

 

 ウクライナ侵攻で戦争犯罪を犯したとされるロシアのプーチン大統領らには、すでに逮捕状が出ている。彼らはICC加盟国に外遊すれば逮捕される恐れがあって、外交上の制約になっている。昨年からのガザ紛争で、イスラエルのネタニヤフ首相らにもICCの逮捕状が出た。これに対して、イスラエルはもちろん米国の一部からも強い反発が出ている。

 

ICCの独立性を守るために日本政府に行動を求めるNGO共同書簡 | Human Rights Watch (hrw.org)

 

    

 

 この共同書簡によれば、米国議員らが、

 

ICCへの米国支援の全面停止

ICC検察官らの米国入国を禁止

・検察官らに対する制裁法案を準備

 

 すると脅している。ICCはもちろん、多くの国際機関が各国からの拠出金で運営されていて、最大のスポンサーである米国が支援しなくなれば機能に支障をきたす。すでにトランプ政権の時に、WTOの上級委員の選出を米国が拒否して非機能状態になった事件(*2)があった。「COVID-19」禍での(中国をかばう)WHOの対応に腹を立てたトランプ政権が、資金拠出を停止した(*3)こともある。

 

 今回の件についていえば、イスラエルハマスもどちらも悪い。双方のTOPを戦争犯罪で裁くのは当然のことのように思うのだが、独立性を侵す圧力がかかってくるわけだ。モサドが具体的なICCへの介入(&脅迫)を始めたともいい、独立性侵犯懸念は高まっている。

 

 WWⅡ以降国際社会が(冷戦期も含めて)構築してきた国際秩序が崩れ始めて、地球はどこへ向かうのだろう。

 

*1:もちろんICC捜査官が各国に出向いて逮捕するわけではない。ICC加盟国の警察が自国内にいる容疑者の逮捕を行う

*2:WTO改革の要点 - Cyber NINJA、只今参上 (hatenablog.com)

*3:台湾政府の臨戦態勢 - Cyber NINJA、只今参上 (hatenablog.com)